一緒に住んでるから当たり前だけど、毎日ユキを見る機会はあった。でもこの前「ゴンは神様」発言をされて、改めてユキをよく見るようになって気付いたことがある。
「ユキって趣味とかないの?」
「趣味?ないよ」
当然のように返された反応にビックリした。
ユキは一週間に3日くらい働いてる。だから給料をもらってるはずなのに、ユキの部屋には本なゲームとか、嗜好品……っていうんだっけ? それがない。その代わりとばかりにユキはオレによくお菓子を買ってくれる。森で遊んで服が破けたらプレゼントと言って新しい服をくれる。
「オレに何か買うよりユキのお金なんだからユキの買いたいものを買いなよ!」
「ええ? でもゴンに必要だと思ったのが私の買いたいものだし…」
困ったような顔のユキに頭を抱える。
ユキが自分を大切にしてないのは知ってたけど、ここまでとは思わなかった。こうなったらオレがユキに趣味はどんなものか教えてあげようと意気込んだ。
何だか最近ゴンがやたらと森に行こうと誘ってくる。いや、それは前からあったし断ったことはもちろん一度たりともないんだけど、なんかこう、前とは違うのだ。
「ゴン、私と森行くの楽しい? コンとの方がよくない?」
「ユキが仕事でいないときはコンと遊んでるよ。これは遊ぶっていうか、ユキに趣味を作ろうと思って。オレは森くらいしか勧められるものがないし——あ! 今すごく大きな鳥がいたよ!」
目をキラキラさせて駆け出したゴンに首を傾げる。うーん。神様の言うことはよくわからない。でもその言葉は絶対だから従わなければいけないだろう。
ゴンの言う"すごく大きな鳥"を捕まえるべく木に登る。真下に鳥が来たところで木から飛び降りて鳥の首に蹴りをいれると、鳥は悲鳴をあげながら落ちていった。
「すごーい! 近くで見るともっと大きく見えるね!」
「そうだね。家に持って買えったらミトさんが料理してくれるかな」
え、食べるの? と目を点にするゴンに食べないの? とこちらも目を瞬かせる。そうしていると息の根を止めていなかったことが災いしたらしい。鳥が大きな羽根を広げて暴れだした。うわっと声をあげるゴンに鳥が襲いかかる。
「——!!」
やばい、と思った同時に動く体に感謝する。咄嗟にゴンを抱き締めて鳥に背を向けた私は暴れる鳥の鋭い爪に背中を抉られるように引っ掛かれた。割と痛い。これじゃ反撃できないと判断して身を隠すことにした。
「ユキ! 血が、」
「動かないで。ゴン、一回隠れよう」
飛び込むように草木に隠れてやり過ごす。鳥は巨大なだけあって生命力は強いのか、暴れるだけ暴れて飛び去っていった。ほっと息を吐く間もなく、自分の現状を思い出してゴンから離れる。
「ごめんゴン! 服に血がついたよね!?」
「え」
「それに危険な目にも合わせたし……どう詫びればいいんだろう」
最初の攻撃でケリをつけていたら、ゴンに血をつけることはなかったのに。なんて仕打ちをしたんだろうと項垂れていると、ゴンがそんなことどうでもいい! と怒鳴った。
「早く手当てしなきゃ! オレこそユキに怪我させて……本当にごめんなさい」
「ゴン、それは違うよ」
勢いよく頭を下げたゴンの顔を無理矢理あげる。罪悪感の滲む顔に笑いかけ、私は痛む背を無視して神様に懺悔するように膝をついた。
「私に非はあれど、ゴンが悪いことなんてひとつもないよ。怪我をしたゴンに心配かけた私が悪いの。だからゴンは悪くないよ。それに神様はいつも正しいんだから。悪いなんてこと、あるはずないでしょう?」
そう言うとゴンは大きく目を見開いて俯いてしまった。まさかどこか怪我をして痛むのかと心配すると、違うと返ってくる。
「ユキは、そうなんだね」
「……ゴン?」
「なんでもないよ。早く帰ろう?」
手当てしなきゃと私を促す神様は、やはり前の神様とは違う気がした。
ゴンが私に戦うなと言ってきた。それに対してゴンを守る以外でならと答えると怒られた。どうしてと考えている内に習慣と化したゴンと行く森の散策の時間になる。しかしこれまたいつもと違いゴンは森に目を配ることなく、楽しげに私に話しかけるだけだ。
「ゴン、森で遊ばないの?」
「……ユキはオレと話すの、いや?」
そんなわけないと全力で否定すると嬉しそうに笑う。神様を否定するなんて罪深いことはしない。……しないが、これはおかしいのではないだろうか。だっていつもは元気に森を駆け回るゴンが話しかしないなんておかしい。熱があるのかと額に手をやるけど子供体温で私より高い温度は熱くはなく、温かい。
「私は気にしなくていいよ? コンと遊んでおいで」
「それはダメだよ! ユキの趣味を作るために森に来てるのに」
「でも遊びたいでしょ?」
直球に聞くと嘘をつけないゴンは言葉につまる。チラチラとコンを見ていたのには気付いていた。行っておいで、とコンの方へ背を押す。
「そうだ! じゃあユキは釣竿持っててよ!」
「いいよ。ここで待ってればいいかな」
「ありがとう! うん、そうだね。ここから動かないでね」
大樹の根元を指差したゴンはそう言ってにこりと笑った。私に釣竿を握らせて、地面に盛り出た根に座らせる。ゴンはされるがままの私にもう一度ここから動かないでねと告げるとコンの方へ駆けて行った。
「……心配、なんだよね」
初めてされた心配というものに心が暖かくなる。私なんかを心配してくれるなんて、ゴンは本当に神様だ。
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