船じゃない。
意識が戻って一番初めに思ったことだった。船特有の揺れがないことに、警戒、と体を固くしかけて、やめる。私は今、海賊ではない。
全て思い出した。私はこの世に産まれる前、船に乗って海賊をしていた。ジョリーロジャーを掲げて、仲間達と冒険をして、その途中で死んだ。そして今、新たに生を受けて生きている。
「……?」
つまり、どういうことだ。
「おや、気が付いたかい」
声の方向に目を動かすと、祖父が目尻に皺を寄せて笑っていた。見慣れない白いカーテンが揺れている。今入ってきたのだろう。
祖父は寝ている私の上にあるボタンを押した。「ナースコールというんだ。押すと看護師さんが駆け付けてくれる」と、いつものように勝手に説明する。小さく頷いて理解を示した。
「まだ混乱しているだろうから話は後でしよう。……生きていて、よかった」
心臓を針で刺されている気分だった。皺を更に増やす祖父の顔から天井へと視線を戻す。
船じゃない。
暖かい木目の室内。
揺かごのような揺れ。
微かに香る潮の匂い。
外から聞こえる和気藹々とした喧騒。
全てここにはない。
わかっている。
わかっている、けれど。
ここは船じゃなくて、私は海賊じゃないのだ。
***
検査結果に問題はなかった。念のためあと1日入院して安静にするように、と言って、医者と看護師は部屋から出て行った。
私は海の前で倒れていたらしい。祖父が家に私がいないと気付いて探していると男の子が見つけてくれたのだと。救急車で病院に運ばれて今に至る、と祖父は話した。
「今度お礼を言いに行こう。とても心配してくれていたから」
気絶するまでは私も鮮明に覚えている。状況はわかったが、ひとつだけ事柄が抜けていることに疑問を持った。悪魔の実のことだ。
生前の私はキリキリの実の霧人間だった。なぜか今の体も能力を有しており、あの男の子は私の体が霧化したところを確かに目撃した。しかし医者は体調面以外では何も言わなかったし、祖父も知っている素振りはない。話していないのだろうか。
思考に深く沈もうとしていると、手に乾いたものが触れた。祖父の手だ。眉が下がっているのに、口角は上がっていた。
「どうして海浜公園に行ったんだい?」
「……」
「理由があるんだろう? アオは賢いから」
賢いと行動に理由があるのだろうか。祖父の質問はたまに意味がわからない。
「……うみ、みたかった」
それだけ。理由とも言えないただの欲望。我儘ともいう。そもそも海が見たいのに理由も何もない。海が見たいから、見に行った。それだけだ。理由なんてない。
「……そうか」
祖父は口角も下げてしまった。
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