メリオダスはリオネス城にいるときは毎朝リルの元へ朝食を届けに行く。リルに出会う前は侍女がしていた仕事だが、今はメリオダスの仕事だ。
厨房にて朝食と食後のティーセットが乗ったワゴンを受け取りそれを押しながら廊下を歩く。そこへばったりと出会ったのはリオネス王国国王バルトラだった。
「何で朝からバルトラの顔見ねえといけねえんだ」
「いきなり失礼だな!?」
「大丈夫だ、バルトラだから」
謎の自信に満ちた顔で胸を張るメリオダスにバルトラは物言いだけな目をしたが、諦めたのだろう。ワゴンを見ると空気を変えるように咳払いした。
「毎朝リルの朝食を届けてもらっているみたいだな。本来の仕事の内に含まんのに、すまん」
「気にしてねえよ。あいつも侍女が持ってくると食べ終わるまでその場にいて嫌って言ってたしな」
「……そうか」
「基本一人が好きな奴だしな」
これはメリオダスが今までリルと接してきて思ったことだ。彼女は人と話す時は必ず目をそらす。会話の最中も何かを気にしては眉を寄せ、何度か「早く帰って」と言われたこともあった。それらの言動からくる心情を考えた結果、メリオダスはリルが人嫌いだという結論に達したのだ。
しかしバルトラは苦笑してその結論を否定した。
「メリオダス、答えを出すにはまだ早い」
「そうか?でも当たらずとも遠からずだろ?」
「あの子を理解するには時間がかかる。まあ、感情が顔に出やすい子であるのは確かだがな。人嫌いではないが、好きでもない」
娘であるのにバルトラは随分変な物言いをする。メリオダスが訝しむより先にバルトラは「気になるなら本人に聞いてみろ」と言い、廊下に消えた。
***
「てことでリルが人嫌いなのか教えてくれ」
「…話が読めないんだけど」
場所は変わってリルの部屋。パンをちぎって口を入れる作業を繰り返していたリルは突然の問いに手を止めた。メリオダスが『食べながらでいいから話したいことがある』と言うから何事かと思ったが、この様子では大した事じゃなさそうだと呆れたように溜息を溢した。
「さっきバルトラと会ってさ、リルは人嫌いじゃないって聞いたんだ。でもお前よく嫌な顔するだろ?本当なのかと思って」
「……先にそれを言って」
説明もなしに質問されてもわからない。もう、と不満気に呟いて止めていた朝食を再開する。メリオダスが視線で答えを促してくるのを物ともせず、マイペースにパンを呑み込んだ。
「……別に、人嫌いじゃない」
「でも時々嫌そうな顔するだろ。昨日の夜も嫌そうにオレの話聞いてたし」
「…昨日?……ああ、それは、」
メリオダスが言ったことに心当たりらしい。リルはそれを話そうとし、躊躇うように口を閉じた。ん?と首を傾げる。
「……昨日、は……少し、だるかったから」
気まずげに告げられた事実に片眉を上げる。メリオダスが「今は?」と聞くと緩く首を振った。
「何でその時言わねえんだ。ただでさえ部屋に篭りきりだってのに、ベッドからも出られなくなったらどうすんだ」
いつもより少し低い声に目をそらす。リルとて体調のことを言わないというのはいけないと分かっている。メリオダスがここにいるのは単なる暇つぶしではなく仕事なのだ。それを全うさせるのがリルの仕事でもある。
「……でも、」
「反論は聞かん!」
どーんと腕を組むメリオダスに不満の視線を送る。本人はどこ吹く風で食後の紅茶の準備をし出した。
「………話、聞きたかっただけなのに」
「え」
愚痴るように小さく呟いたそれを拾えたのはメリオダスの五感が人より優れていたからだ。思わずというようにリルを見るとパンを食べ切ったところだった。スープをスプーンでかき混ぜながらリルが言う。
「…あなたの話は、聞いてて楽しい」
「……」
それはつまり、体調が悪いことを隠してまでもメリオダスの話を聞きたかったということで。そして多分こういうことは初めてではなく今まで何度かあり、不機嫌だと思っていた表情は実はリルが気分が悪いのを我慢していたものだったということで。
「……早く帰ってって言ったのは?」
「……仕事の時間なのに出て行く様子がないから」
憶測だが、リルの不可解な言動は全てメリオダスが起因らしい。それらを問い質してもいいが恐らく本当のことは自分でもよくわかっていないだろう。自分にも他人にも鈍感な彼女はその時の感情で動いているだけで、その根本にあるものには目も向けない。
しかしこれでわかった。元々口数は少ない方だとは思っていたが、リルは本当に必要最低限のことしか話さない。自分の中で処理してしまうからだろう。だから誤解してしまうが、確かに彼女は人の好き嫌いはともかく人の嫌がることはしていない。
「……バルトラの言った通りだな」
「?」
まだ知り合って日が浅いのに、毎日会っているからと油断していた。王女様を理解するにはまだまだ時間がかかりそうだ。
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