リルの朝は遅い。
起きるのは太陽が燦々と輝く昼。もしくは太陽が地平線に落ちる夕方。どちらにせよ、朝起きることはない。昔ーー彼女が王女だった頃は早寝早起きという健康的な生活を送っていたが、今はそうもいかないのだ。かといって遅く寝るわけでもない。言うなれば早寝遅起き、睡眠時間が増えただけのことである。

「おっかぁーーっ!!」
「っ、」

ちなみに今は午前中。リルは余裕で寝ている時間だ。とある一室のクローゼットにて無理矢理簡易ベッドを作り、そこで静かに寝息を立てていた彼女は聞き慣れた声に飛び起きた。そしてクローゼットが故の低い天井に勢いよく頭をぶつける。

「いっ…た…!」

寝起き早々ついてない。
頭の痛みに悶絶しているとベッド、というより建物全体が揺れた。バランスを崩し、またしても頭をぶつける。全く把握できていない事態に何なんだ、と悪態を吐いた。

「……はぁ」

揺れに慣れてきたのを見計らい、クローゼットのドアを開ける。途端に入ってくる光に目を細め床に足を降ろした。ひやりと冷たい。
ネグリジェから白いワンピースへと、あまり変わりのない服装に着替えていると一階の酒場が騒がしいことに気付いた。何か起きたのかと警戒するも、どうせお人好しな旦那が面倒事を持ってきたのだろうと即座に警戒を解く。そもそも自分の助けがなくとも大抵のことはできるのだから気にしなくてもいいだろう。
当たらずとも遠からずな結論に至り、大人しく旦那の方のベッドに座る。と、部屋の扉が壊される勢いで開いた。その先にいたのはリルよりも小さな豚。

「起きろ!緊急事態だ!!」
「…もう起きて、」
「うおおおリルが起きてやがる!!?」
「………」

ピンクの体とお尻にクローバーの模様がある一見可愛らしい豚から出てくる言葉は何とも汚い。そして失礼だ。
プゴッと鼻を鳴らして驚く豚に冷たい目をやるリルだが、豚は彼女の様子には気付かずトントコと近付いてくる。

「起きてんならさっさと下に来やがれ!お前が寝てる間大変だったんだぞ!!」
「…今も大変みたいだけど」
「そうだよ!王国の王女様が聖騎士に殺されそうなんだ!」
「………王女?」

元リオネス王女として気にかかったのか、リルが反応する。しかし豚、もといホークは「早く来い」と背を向けていたため見えなかった。代わりにリルがホークの背に刺されたものを見て目を丸くし、次いで呆れた様子で立ち上がる。

「ほら行くぞ!今おっ母に頼んでメリオダス達のとこに戻って痛えええ!!」
「あ、抜けた」
「抜けた、じゃねえよっ!何してくれてんだお前は!!」
「……枝刺さってたから」

どんな経路があって豚の背中に枝が刺さったのかは知らないが特に痛そうにしていなかったから大丈夫なのかと。抜く時は痛いのかとリルが考えているとピューッとホークの背中から血が出ているのが見えた。本能的にそれを指で掬い取って舌で舐める。
その行為にホークは目を見開き、リルはうえ、と舌を出した。

「なに勝手に豚の血舐めてんだてめえはぁぁぁ!!!」
「………まっず」

怒るホークも何のその。リルは盛大に顔を歪め、後で旦那の血を奪うことを密かに決意した。







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