成績が中の下でも素行がぶっち切りで悪いとダメらしい。
日頃の態度が不良一択の私に担任が取った行動は雑用だった。奉仕活動でなんとか通知表のコメント欄を埋めたいのだろう。生活態度の欄もあるんだか。小学生の通知表なんて貰ったの何年前だ、覚えているわけない。優良がなかったことだけはなんとなく、いや流石にひとつくらいはあった気がする。たぶん。
「このプリントを教室までお願いね」
「はあ」
職員室に呼び出されて渡されたのは、デフォルメされた動物と平仮名しかない文章が印字された数十枚の用紙の束。『このどうぶつのおなまえはなんでしょう』の一文がなんとなく目に入る。次は国語だからそれで使うのだろう。平仮名ばかりって頭脳は大人からすると逆に読みにくい。
プリントを腕に抱えてすぐ体を後ろに退く。仕方なく雑用なんて面倒くさいことをしているが、あれもこれもと頼まれるつもりは毛頭ないのだ。
「そうだ、あとコナンくん呼んできてくれないかな? ちょっと用事があって」
「………………わ、かりました」
ぐしゃ、とプリントの一部が皺になった。
頭を下げて退室しながら心の中で罵詈雑言を吐く。舌打ちをしなかっただけ褒め称えてほしい。別にあの担任だししたってよかったが、不必要に悪印象を与えることもないだろう。もしまた頼まれたらその時は断るが。
面倒くさいなぁ、嫌だなぁと思いながら休み時間で騒がしい教室に入る。ドアを潜ったところ、ちょうど教室から出る男子数人の内の一人とぶつかった。その拍子に緩んだ腕からプリントが落ちる。
「ごっ、ごめん!」
「あーうん。こっちもごめん」
形だけの謝罪を口にして散らばったプリントを手早く集める。クソ面倒。ただでさえイラついてるのにこのクソガキ達は何してくれたのか。
溜息くらいは許されるだろうとわざとらしく吐く。チラチラと視線を感じるため、顔を上げないまま「もう拾い終わるし行っていいよ」とこれまた棒読みで言えばクソガキ達は蜘蛛の子を散らすように去っていった。聞き分けがよくて何より。
適当に拾い集めた上下表裏がバラバラのプリントの束を腕に抱え直し、今度こそ教室に入る。教卓前の席の主は不在にしていたので借りてプリントの向きを揃えた。
「楓ちゃん、一枚落ちてたよ」
とんとん、と束を揃えていると私の持っているプリントと同じ用紙が差し出される。全部集めたと思いきや取り漏らしていたらしい。親切にも拾ってくれた子にお礼を言おうと顔をあげた、ら。
「はい、これで最後だよね?」
「…………うん、ありがとう」
——まさかの某名探偵でした。
何でだよ、いつも連んでる奴らは外で遊んでるぞ。と、言いそうになるし顔にも出そうだったので慌てて思考を振り払う。こいつはやたら勘がいい。今さら子供らしく振る舞うことはしないが不審に思われるのはごめんだ。本当に心の底から関わりたくない。
某名探偵をこんなに近くで見たのは初めてだった。いつもは背中か横顔という後ろからのアングルが多いから、新鮮さと違和感がある。めちゃくちゃ落ち着かない。早く某名探偵の視界外に行きたい。
ガン見はしないように顔全体を見ることを意識して、すぐにプリントを受け取る。用事は終わったとばかりに視線を外そうとした、その直前。某名探偵はにこりと笑った。
それはもう、ぞっとするほど可愛らしく。
「プリント配るの? 僕手伝おうか」
「いい。それより先生が江戸川呼んでた」
早口で伝言を伝え、某名探偵が何か返してくる前に教卓にプリントを置いて自分の席に戻る。その際走らないように注意したが早足にはなっていたかもしれない。某名探偵の「ありがとう!」という声も無視だ。とにかくフラグになりそうなものは全てへし折っていきたい。今まで回避してきた関係性をこんなことで持ってたまるか。
引き出しから本を出しかけて、読書より顔を伏せている方が絡まれにくいかと考え改めて机に突っ伏す。たぶん某名探偵はもう教室から出て行っただろうが念には念を入れて。
「はー……」
男子高校生の全力の子供演技を目の当たりにした感想は「すごい」の一言に尽きた。紙面や画面越しのときは何とも思わなかったが、あれは確かに女優の血を継いでいるだけある。もう二度と関わりたくないレベル。
そのうち元に戻れる某名探偵は毎日あんな演技をしているのかと思うと同情心は湧く。湧くだけ。それ以上に事件や事故など、負の付属品が多すぎて結局マイナスなのでやっぱり関わりたくはない。
こんなことが起こるなら今度から担任の雑用は全て断ることにしよう。テストを白紙で出すことをやめれば文句もないはずだ。素行は、まあ、なおらないので担任が諦めてほしい。