ヒカリ
オンボロ寮の玄関扉を開けて外に出ると、ひんやりとした空気と同時に湿り気が体に纏わりついた。
木々の葉も半分ほど地面の絨毯となってしまったこの季節。朝なのにまだ日は出ていないからよく見えないけれど、もしかしたら雨が降っているのかも……傘を持って行こうかな。なんて思っていたら、それもまたこの時期の風物詩、霧が立ち上っていただけだった。荷物が増えなくて良かった。一安心して扉に鍵をかけた。
少しだけ歩いて、太陽がまた昇らないほんのり薄暗い道に心細くなってスマホのライトで照らそうとすれば、ポッと淡い光が灯った。
「レオナ先輩?!」
レオナ先輩はそのまま無言で私の旅行鞄を持つと、そのまま私のペースで歩き始めた。
暗い道が明るくなったのはこの光のおかげだけではないはずだ。
「ったく、クロウリーのやつ、闇の鏡くらい使わせろよ。アイツの厄介事で出かけるんだろ?」
「まあ、私1人で闇の鏡使うには少し不安がありますし、それに、公共交通機関を使うっていうのも私には相当勉強になりますよ!」
学園長の命令で3泊4日で国外にある他の魔法学校の先生のお手伝いをすることが決まったのはつい数日前だった。
相手校、その国の文化を事前に調べたり、準備したりと忙しかったから気にならなかったけど、やっぱり心細い。気がつけばバス停はすぐそこで。このまま、バスが来なければいいなんて思ってしまう。
でも、たった1人でNRCを離れるのは不安だけれど、万が一元の世界へ帰れなかったらなんで場合を考えたらそんなこと言っていられない。
ほら、遠くからヘッドライトの灯りとエンジンの低い音。
バスに乗り込むため、持っていた荷物を受け取ろうとすれば、隣にいたはずのレオナ先輩はいない。荷物に手を伸ばしたはずの私の左手はバスの中へと誰かに引っ張られ、身体も一緒にバスへと引き込まれた。
勢いのまま乗車口すぐそばの椅子に座らされ、その隣に当然のように人が座る。
バスの扉はプシューと音を立てて閉まった。
「レオナ先輩?!なんで?」
「さあな、んな顔してる草食動物を国外に出したらすぐに食われちまうからな」
レオナ先輩に伝えたのは、今日から他校のお手伝いに行くという事実のみのはずだったのに。
この人はいつもそうだ。他人の心を、繊細な部分までも読み取っていく。
「授業とか、大丈夫なんですか?」
「なんとかなるんだよ、そんなもん」
今はこの優しさに甘えてしまおう。
東側の窓から眩しい光の筋が差し込み始めた。
END