額がじわりと汗をかくのを感じる。
『あの、ね、私ね、その、仕事、解雇された…』
「…なんでです?」
彼は自分のアイスコーヒーをかき混ぜる。
『わかんない…あと少しはお給料出るらしいけど、もう、』
ここが人気のカフェで助かった。周りの人達はワントーン高い喋り声で、私の話を聞いていることは無さそうだ。
彼が伏せていた目を開く。
「じゃ、俺ら別れましょ。」
先程までの汗も全部引いて、心臓も時間もぜんぶ止まった。
『、うそ、冗談でしょ?』
「どこが嘘やと思うんですか?俺が今まで嘘つくことなかったでしょ。…いや、嘘しか知らんのか。」
どく、どく、とやけに心臓が鳴り始める。
『…あ、っ』
脳がごちゃごちゃになって何を言いたいのかわからない。喉が震えて声が出ない。
「ふふ、は、はは」
「…っはー、おもしろ!」
彼は今までより大きい声で、でも周りに響かない程度にばか笑いした。…馬鹿は私か。
「文無しのあんたにもう興味無いってこと。ま、俺優しいし最後に奢ったるわ」
彼が伝票を持って立ち上がる。
『お金がある私、には興味あるの…?』
彼の瞳が私を捉える。そこに映る私はやけに情けなかった。
「…幸せやな。」
淡々とお会計を進める声が聞こえる。
ドアから出ていく彼はこちらを振り向きもしなかった。