海原を割る声/shp

窮屈なドレスにハイヒール。手にはすっかり泡の無くなったシャンパン。周りの人達はべったりと貼り付けた笑顔を撒き散らして相手の腹の内を明かす瞬間を今か今かと待ちわびている。

つまらない。味気ない。楽しくない。形容する言葉がいくらでも思いつくのは強いられた勉強のせい。

今日だってこっそり会う約束だったのにな。なんで身分が違うってだけで堂々と好き合えないんだろう。
本当はこんな生活から連れ出してほしい。でもそんなこと言ったって優しい彼を困らせるだけだ。


落胆の気持ちでふと見上げたシャンデリアは瞬きの間に粉々になった。

辺りが混乱に陥る。ある人は甲高く叫び、ある人はお飾りの妻を置いて一目散に出口へと。

阿鼻叫喚の中でぽんぽん、と肩を叩かれる。

「美しいお嬢さん、お暇でしたら僕と踊りませんか?」

振り返るとそこには愛する人。

『ショッピ!』
「遅れてすまん。迎えに来たで。」

そう言って君が微笑むだけで世界が色づく。

「…俺の手を取ったらお前は二度と今には戻られへん。それでも、一緒に来てくれるか?」

差し出された彼の手を払い除ける。彼が目を細めたその瞬間に彼の胸に飛び込んだ。

『一緒なら何処に居たって幸せだよ。ずっと隣に居たい。』
「...よっしゃ、ちょっとだけ走るで」

触れるだけのキスをした後、彼に手を引かれ走り出す。

耳障りでしかなかった混乱も今では波のさざめきみたい。
魔法のステッキを一振りして。走りやすくするために破いたドレスも、欠けたピンヒールも、ぐちゃぐちゃになった髪だって、シンデレラよりずっと綺麗。

今すぐ大きな声で皆に伝えて回りたいわ。
世界一素敵な彼が愛するのはシンデレラじゃなくて私なんだって!


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