「な、お出かけせぇへん?」
規則的な揺れに会話を弾ませながら目的地へ向かう。
急に寒くなった風に慌ててコートを出したのは内緒。
〈次は──、〉
「あ、ここ!次で降りるで」
『ん?ここって...』
「そう!なんか前行きたいって言ってたやん?誕生日やしどうかなーって思って、」
まぁるい瞳をちらちらさせながら照れ気味に彼が話す。
『あのね、ここ蛍の名所なの...』
今日は11月7日。運が良くても蛍は見れないだろう。
「え!?あー、ごめん...ちゃんと聞いとけばよかったな」
あからさまにしゅんとした声色になる。
貴方とお出かけできるなら何処でも楽しいです、なんて甘い言葉はちょっとハードルが高い。
『あ!!』
『確かすごい有名なカフェがあったと思う...!』
デザートだけじゃなくてメインメニューもしっかりあったはず。それに、電車ならお酒も飲んじゃっていいかも。
「カフェ...じゃあそこ行こか!ほんまリサーチ不足ですまんな...」
『そんな事ないよ!一緒に行けるだけで楽しい。』
彼が柔らかく微笑む。勇気だしてよかった。
***
「『ご馳走様でした。』」
運良くすぐ席に座ることができ、美味しい料理に舌鼓を打った。
「あのさ、さっき調べてんけど...」
「例の蛍の名所さ、夕焼けがめっちゃ綺麗に見えるらしいねん。せっかくやし行かへん?」
『夕焼け...!行きたい!!』
人通りの少ない道を手を繋いで歩く。
吹き抜ける風も全然さむく感じない。
きらり、と住宅の途切れたその先から光が差す。
『わぁ...!』
「すご、めっちゃ綺麗...」
一面に広がる色彩に瞳が奪われる。草木はさらさらと揺れ、浅い川の水は石で流れが変わってちらちらと光を反射している。
『今日来てよかった。』
心から溢れる幸せを笑顔に変えて彼に言う。
「...俺も、名前と一緒に来れて良かった。」
「来年もまた誕生日祝わせてくれる?」
『もちろん!』