そよそよと心地よい風が頬を撫ぜる。まだ完全には開かない目を向けると、読々かけの本のページがパラパラと捲れているのがわかった。
栞を挟もう、と周囲を見渡すもそれらしきものは無い。
『(机の下に落ちた?それとも遠くまで飛んでっちゃったのかも...)』
「なぁ」
『っ、はいぃ!?』
突然、後ろから声がかかる。
「うぉ、あんま大きい声だすなや…これ、探しとるんちゃうん」
ひら、と彼の手で揺れたのは水面をそのまま写し取ったような栞。
『…あ、ありがとうございます。お気に入りなんです。』
「ん、ならもう失くすなよ。」
ほい、と渡される栞、ありがとうございますと言う言葉は手首を掴まれ引き寄せられる事で遮られた。
『俺な、コネシマって言うねん。ようアンタのこと見掛けるけどな、こんな所で無防備に寝てはったら何されるかわからんで?』
近くに写る彼はきらきらしていて、思考の全てが奪われた。
同時に、私の心は何かに落ちる音がした。
「、えと、」
『はは、単純!アンタ、なかなか面白いやん?また遊ぼうな』
突然離された手首は行き場を無くし、だらんと垂れ下がっている。
ひらひらと振られる手のひらから目を逸らすことが出来ずにいた。