「いやぁ、おねーさんとも今日でお別れやなぁ!あー寂しい、観賞用にどう?お給料で買ってってよ!お喋りも楽しーよぉ」

やかましいこいつとも今日でおさらばだ。こいつが出てったらまず檻の点検に整備、次の目玉商品の入荷の話しをつけて、あぁ日付も決めてお客にもアタリをつけて連絡を...頭がごちゃる。後にしよう。

「どう、順調?」
『...何が?』

実を言うと今日お見えになるはずだった例の国の要人が来ていないのだ。正直、他の客はしょっぱいつまんねーモンしか買わないだろうし彼らが来てくれないといまいち盛り上がらないだろう。

「ん?なんかカリカリしてんなーって。」

バレてんな。クソが。

『別れを惜しんでる。』
「ぜぇっーたい嘘や!」
『ま、若い男はバラせばいいし...』
「おいおい物騒やな...」

実際こいつは売れるのか...?観賞目的で若い男を買うやつは今日の客に居ないこともないが、敵国幹部の箔が付けばそれなりに値も張る。
コスパを考えたら微妙なラインだな。

『おい、なんかもっとアピールポイント言え。』
「えぇ?うーん、嘘が吐けない性格で正直者です、とか」

そういうこと言う奴は大体嘘吐きだしひねくれてるだろ。

『なんとか売れるように頑張るよ。』
「こんな魅力的な商品買わん人間おりゅ?じゃなくて売れへんくてええねん!奴隷いや!頑張らんといて!」

かち、かち、時計の長針が真上を指す。

会場の埋まりを見とくか。服も着替えて気合いを入れ直そう。

「じゃ、またステージでねー」

ドアに手をかける私に檻から手だけをひらひらと出している。
一拍あけてドアノブを捻る。

***

入りはまぁまぁ。盛り上がりは上々。売れ行きも期待以上。結局例の国の要人もいらっしゃいましたので。

さぁ、クライマックスと行こう。

「お次は悪名高き隣国の幹部!日頃の恨み、鬱憤、奴隷にぶつけたって悲しいことに隣国には何のダメージも行きません。ですが!この男ならダイレクトに伝わります!」

まぁそんなことないと思うけど。

「力仕事は向きませんがサンドバッグ、観賞用、幅広い使い方が出来ますでしょう!」

ほんまに言ってるやん、などと小さい笑い声なんてすぐに観客のざわめきに消えた。

「さぁ、お値段は──」

右手を大きく上に上げる。スタートと共に耳を劈く高い音は静寂の幕をビリビリに引きちぎる。はずだった。


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