唇/tnpr:不二
夕焼けの射し込むベンチに並んで腰掛ける。カシュッと鳴る音を喉に流し込むと軽い刺激と共に潤いを感じた。
少し蒸し暑い風が頬を撫ぜる。
「君ってほんとに、何も知らないんだね」
『…そうかな?』
子供たちが名残惜しそうに公園から離れていく。母親に手を引かれているあの子は明日引っ越してしまってもう会えないのかもしれない、なんて、脳内で勝手に話を綴る。
「良くいえば無垢、悪くいえば…」
『馬鹿。』
「いや、無知ぐらいがちょうどいいんじゃない。」
缶ジュースから垂れる水滴がスカートに模様を広げていく。
『そんなに何も知らないかなぁ。』
「うん。知らないよ。」
どうやら彼はもう飲み終わってしまったらしい。
『そりゃ不二は物知りだし、乾君みたいにデータも取ってないけどさぁ、そんなに何も知らないって訳じゃないと思うんだけど。』
「じゃあ狡猾。何も知らないふりしてる。」
私も残りを一気に飲み干した。ぬるく、刺激の抜けた液体はもう一口目とは違うものになっていた。
『…ずるくないよ。』
「ずるいよ。全部わざとだもん。僕にだけ違う笑顔でいたずらに笑いかけるのも、髪をひらめかせるのも、熱のある瞳で見つめるのも、全部。」
橙色のハイライトが入った瞳に私が映る。
『…ばれてたかぁ』
そういう貴方だって同じでしょ。
***
「ねぇ、もう逃がさないよ。」
…彼が飲んでいたのはレモンスカッシュだったらしい。