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「ルネ、いつの間にシリウスの弟と仲良くなったんだい?」

グリフィンドール寮へ急ぐ中、いつもより真剣味を帯びたジェームズの声が響く。それに耳を貸しつつ、ルネは首を傾げた。

「…昨日?」
「あいつから話し掛けてきたのか?」

間髪いれずにシリウスが問う。それを怪訝に想いながら、ルネは首を振った。

「いや?私から、かな。」

どっちが話し掛けたとか言う状況ではなかったが、どっちか決めるとすると、やはり私からになるのではないだろうか。

曖昧に応えたのが不信感を煽ったのか、シリウスが眉根を寄せた。

「本当かよ。」
「本当だよ。」

肩を竦めて応える。
何をそんなに聞く事があるのだろうか。

スリザリンと仲良くなったのが不快なのか。それともシリウスに黙って弟と仲良くなったのが不満なのか。
だとしたら相当なブラコンじゃないか。それはない。

「ねぇ、ルネ。」

歩きながらシリウスとにらめっこしていると、隣から柔らかい声で話し掛けられる。
その表情は柔らかくなかったが。

「あまり言いたくないけれど、…相手はスリザリンだ。深入りしない方がいいかもしれない。」

ジェームズの言いたいことが掴めず、ルネは思わず眉を寄せた。それと同時に歩みも止めてしまう。
それにつられるようにして二人もその場に留まった。

「ジェームズの言う通りだ。アイツがルネを利用しない保証なんかないからな。」

ジェームズの言を引き継ぐようにしてシリウスがレギュラスを否定するようなセリフを吐く。
彼らは大切で大好きな親友だが、だからといって出来たばかりの友達を否定されるのは嫌だった。


「人を寮で判断するのは嫌だな。」


不快感を隠さず伝えると、彼らは顔を見合せて溜め息を吐いた。
私が首を傾げると、呆れた風でジェームズが口を開く。

「人を疑わないのがルネの美徳だと、僕は思ってるけど…それで散々嫌がらせを受けたのは覚えてる?」

諭すような彼の喋り口調に、らしくなくルネは詰まってしまう。

確かに嫌がらせは身に覚えのない事ではなかったし、それで嫌と言うほど彼らに迷惑を掛けたのは記憶に新しい。

それこそリリーは私以上に激昂してくれたし、何より悲しんでくれた。
口を噤むルネに、シリウスが言う。

「何の為に俺らがお前の彼氏のフリしてやってんだよ。」
「そうだよ。嫌がらせに遭わない為に付き合ってるって噂を立てたのに、ルネから危ない目に遭いに行くんじゃ僕達でも守れない。」

二人の気持ちは嬉しい。
確かに付き合ってるという噂を流してからというもの、諦めたのか、それとも『彼女』に何かする事によって悪戯仕掛け人からの報復を恐れているからなのか、嫌がらせは激減した。

それでもやっかみは絶えないが。

「ねぇ、でもさ。せめて付き合ってる設定の人ぐらい決めた方がよくない?ジェームズもシリウスもリーマスも『自分が付き合ってる』って言うからややこしい噂が立って困りものなんだけど。」

眉を八の字にしながら言うと、ジェームズはにっこり笑った。

「だってその役を誰も譲らなかったんだよ。」

隣を見ればニヤリと笑っているシリウス。はぁ、と小さく溜息を吐く。
すると、ジェームズに肩を抱かれた。

「どうしても役を一人に絞りたいなら、僕にしたらいいよ!なんたってルネは可愛い可愛い妹だからねっ!!」
「いつも言うけど妹じゃないでしょ。幼馴染ってだけで。」
「そうだぞ、プロングス。大体お前じゃダメだ。エバンズに所構わず求愛してるくせに。」

そう言ってシリウスはルネの肩に回った腕を振りほどく。
だがそれとは逆にシリウスに肩を抱かれた。

「俺にしとけよ、ルネ。」

耳元で囁かれてもドキドキしないのは何故だろう。

「ヤだよ。何だかんだ言ってシリウスのファンが一番怖いんだから。それだったらリーマスが良い。」
「「それはダメ」」

リーマスが良いと言えばいつも二人に阻止されるのは何故だろう。

深く考えないままに二人に苦言を呈していたルネだが、ハッとしたように顔を上げる。



「消灯時間!!」


それに気付いた三人は、ローブを翻し走り出す。
全速力で走る中、ルネは呟くように言った。


「…レギュラスは、…悪い人じゃないと思うけど。」



(その呟きは廊下に消えた)


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