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渋面の二人を前に、ルネは苦笑する。
「レギュラス君のお手伝い。」
「「手伝い?」」
息ピッタリに言う二人に、「そう。」と朗らかに返すルネ。
しかし、兄さんは怪訝そうな顔で僕を見た。
「お前、ルネに何手伝わせたんだよ。」
「え、」
「違うよ、私が手伝うって言ったの。」
そう言って、ルネはひらひらと雑巾を掲げる。するとポッター先輩は首を傾げた。
「何だい、それ。」
「お掃除のお手伝いをね。」
「僕の罰則を手伝って貰ってたんです。」
僕が立ち上がりながら声を上げると、ルネは驚いた様な顔をしつつ微笑んだ。
あ、可愛い。
なんて思って見つめていたら、背後から掛かる声。
「お前が罰則?本当かよ。」
眉根を寄せて兄さんが僕に問う。
明らかに信用していない眼だ。溜息を押し隠しながら頷く。
だが、それでも彼は信用していないようだった。
「シリウス、なんで疑うの?」
「だっておかしいだろ。こいつが罰則なんて。」
「誰だって失敗はあるでしょ?」
当然とばかりに言われた言葉に、何事か言いかけた兄さんはしかし大人しく口を閉ざす。
その様に僕は目を見開いた。
兄さんが大人しく引き下がるのは、とても珍しい事だから。
考えている事を僕の顔から悟ったのか兄さんは僕を見て顔を顰める。そして、ルネに話しかけた。
「おい、ルネ。早く戻らねぇと消灯時間もうすぐだぞ。」
「え?あ、本当だ。」
掛けられた時計を見上げ、ルネが驚いたように声を上げた。
そして机から降り、スカートに付いたほこりを軽く払う。
そのまま横を通過してしまうと思っていた僕は、目の前で止まった彼女に顔を上げた。同じ目線にある彼女の面。
顔の近さにたじろぎつつ、僕は首を傾げた。すると、花のように笑うルネ。頬に熱が溜まるのが分かった。
「ねぇ。今度一緒にホグズミードにでも行かない?」
「えっ…い、いいんですか?」
「もちろん。レギュラス君の事もっと知りたいし、仲良くなりたいから。」
屈託なく笑う彼女を前に、下心のある僕は戸惑ってしまう。
だが、二つ返事で了承してしまう自分に内心で苦笑した。
「本当?良かった。他に行く約束してた人とかいない?」
「あ、……大丈夫です。」
マイクと行く約束をしていたが、事情を知ってる彼の事。多分行ってこいと言ってくれることだろう。
それにマイクには彼女がいると言っていたし、丁度良いかもしれない。
「じゃあ、今度の土曜日に、…」
「ルネ。」
不意に声が入る。
そちらに顔を向けると、渋い顔をしているポッター先輩。
その後ろでは若干怒気を滲ませている兄さん。
ルネに視線を戻すと、ぽかんとした表情だった。
「なに?」
「ホグズミードには僕達と行く約束だったじゃないか。」
「うん、でもたまには違う人と行っても良いでしょ?」
首を傾げるルネに、二人は押し黙る。そんな二人に不思議そうな顔をしつつ、ルネは僕を振り向いた。
「それじゃあ、また。」
颯爽と去って行く彼女の後ろ姿を目で追う(決して残り香を追ったわけじゃない)。
扉の前で待っていた二人とともに並んで出ていく。
仲睦まじ気に話しながら出ていく三人を見送っていると、部屋から完全に出る直前。
兄さんが振り返った。
軽く目を見開くと、兄さんの口が言葉を象る。
『ルネに、近付くな』
はっきりと、兄さんの唇がそう動いた。
固まって動けない僕をよそに、兄さんは何事もなかったかのようの出ていく。
数秒経って、僕は扉を豪快に開け飛び出す。
こんなに乱暴に扉を開けた事が今まであっただろうか。
音に驚き、5m程先にいる3人が一斉に振り向く。
僕は人受けすると知っている笑みを刷かせ、ルネに笑いかけた。
「ルネ。僕の事はレギュラス、と。」
目をぱちぱちとさせた後、ルネは口角を上げる。
「分かった。お休み、レギュラス。」
軽く手を振って去って行く彼女。
その横では、眼光鋭く僕を睨んでくる兄さんと、眉根を寄せたポッター先輩。
彼らににっこり笑いかけ、僕は反対の廊下を行く。
次の土曜に期待感が溢れているのは気のせいではない。
(レギュラス、いい加減にしろって、何着出したら気が済むんだ。お前は女子か、何着ようって女子か!!)
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