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「あら…今日はいつも以上にオシャレね。」
着替え終わった私の姿を見て、リリーが目を瞬く。
「そうかな…」
首を傾げながら自分を見下ろす。
あぁ、確かに。
少しオシャレをしてしまったかもしれない。
まぁ、こんなものだろう、と再びリリーを見つめると、にっこり満面の笑み。
「ねぇ、。やっぱり貴女シリウスの弟が好きなの?」
「…は?」
「だってそうじゃなきゃ、急に一緒にホグズミードに行こうって誘ったり、オシャレしたりしないわよね。」
彼女の言葉に私は困惑する。
「恋…とはなんか違う気がするなぁ…恋するほど知らないっていうか…」
「あら、でも一目惚れってあるじゃない?」
「うぅん?レギュラスの事は前々から知ってたけど、何とも…」
首を捻って考え込んでいると、リリーが不思議そうな顔をしつつも頷いてくれた。
「じゃあ今日一緒にホグズミードに行って、好きになれそうか見極めて来てね。」
「そうだね、そうするよ。」
にっこり笑って応えると、リリーはつまらなそうに口を尖らせた。
「でももしルネに恋人が出来ちゃったら、私ちょっと寂しいわ。」
少し眉を下げる彼女が、本当に可愛くて私は吹き出してしまった。
途端に彼女の眉間に皺が寄ったが。
「恋人は恋人。友達は友達でしょ。」
リリーの豊かな赤毛を指に巻きつけながら言うと、彼女の頬もまた赤くなった。
どうかしたのか、と顔を覗きこんだら逸らされた。
「もうっ…無自覚って凄く質が悪いわ。ルネに彼氏が出来て泣く女の子って、きっと私だけじゃないのよ。」
意味が分からず首を傾げると、呆れられた様な溜息を掛けられた。
益々訳が分からなくなって問おうとするが、もう時間だからと背を押され階段を下りる。
暖炉の前を見ると、お馴染みのメンバーが揃っていた。
「おはよう!!リリー、ルネ!!」
朝から眩しいほどの笑顔を向けられ、リリーは顔を顰めつつ「おはよう」と返した。一方ルネはいつも通り挨拶を返したはずだ。
それなのに、ジェームズは驚いたように目を見開いてルネを見た。
その隣のシリウスもしかり。食い入るようにルネを見つめている。
どこか変なところがあっただろうかと自分を見下ろすルネに、にこやかに微笑みながらリーマスが近付いた。
「おはよう、ルネ。」
「あ、おはようリーマス。」
これまたいつも通り挨拶を返すと、彼は笑みをそのままに言う。
「今日は寝ぼけてないんだね。いつもより早く起きたのかい?」
素直にこくり、と頷くと彼の笑みが一層深くなる。それなのに寒気がするのは何故だろうか。
「それに…いつも以上に綺麗だ。」
言葉は単調で淡白なのに、とても嬉しい。単純に喜びにくいのは、彼の威圧感か。
「ありがとう。リーマスは今日ホグズミードに行く?」
尋ねながら、悪戯仕掛け人を見回す。
ポカンとした表情から一転、がばりと両肩を掴まれた。
言わずもがな、ジェームズに。
「ルネ!!なんで今日は一段と可愛くしてるんだい!?」
「はぁ?そりゃ、ホグズミードに行くから…」
「俺らと行く時は、そんなにめかし込んでねぇだろうが!!」
後ろから割って入ってきたシリウスが、不機嫌を露骨に声に出す。
ルネは攻め立てられる意味が分からず、ただただ首を傾げた。
「ねぇ、ピーター。状況説明。」
「うん、あの…オシャレしてきたからじゃないかな?」
「はぁ!?」
私はオシャレすることさえ罪なのか。
目線でピーターに訴えかけてみたが、彼はただ萎縮するばかり。
唯一の救いだと言わんばかりにリリーを振り向いたのに、彼女は面白そうに微笑んで助けてくれる素振りはない。
取り敢えず、目の前の二人を宥めてはみるが、一向に落ち着かない。
「ルネ!!そんな格好でホグズミードに行くなんて僕は許さないよ!!」
「ごめん、ジェームズに許可されなくても行けるんだ。」
「俺らとあっちどっちが大事なんだよ!!」
「いや、ホグズミードと親友比べろと言われましても…」
「違うよ、ルネ。」
喧騒の中、やけに冷静な声が響いたと思えばリーマスが無表情で呟いていた。
「レギュラスと…行くからオシャレをしたの?」
寂しげともとれる顔で尋ねてくるリーマスに、不思議に思いながらもルネは頷いた。
実際その通りだったし、嘘を吐く必要もない。
それなのに、ジェームズは隣で息を呑み、シリウスは硬直した。
リーマスの表情は察してほしい。
「あ、時間。」
ヤバいと思い、ルネはそそくさと寮を出る。
「ルネ、気をつけてね。」
「うんっお土産買って来るよ!」
軽いウインクと共に出て行ったルネを見送り、リリーは小さく笑いながら女子寮に戻る、はずだった。
目の前に悪戯仕掛け人が立ちはだかり、それは叶わなかったが。
「リリー!!気をつけてね、じゃないんだよ!!今まさにルネには危険が迫ってるんだ!!」
オーマイガー!!
とか言いながら頭を抱えるジェームズを見て溜息を吐く。
「そうだ。レギュラスはスリザリンなんだぞ…何されるか…」
不安げに眉を寄せるシリウスに、本当は犬なんじゃないかと問いたくなる。
「あら、でもそれだったら今までだって嫌がらせする機会はいくらでもあったんじゃない?それにルネは私みたいにマグルでもないし、大丈夫だと思うけど?」
自信たっぷりに言い放つと、二人は途端に口を噤む。
満足気に女子寮に戻ろうとしたリリーの前に、今度はリーマスが立ち塞がった。
「それが作戦で、この日にルネに何かする気だったとしたら?」
予想だにしないその警告に、リリーは目を見開いた。
「ホグズミードでルネに恥をかかせたり…スリザリン寮生が待ち伏せてる、とか…」
「ま、まさか。そんな事あるわけ…、」
「ないって言える?」
リーマスの嫌に真実味を帯びた言葉が突き刺さる。リリーはすぐさま踵を返した。
「そうこなっくっちゃ、リリー!」
にこにこと笑うジェームズが横にいるのも、間接的に悪戯仕掛け人に言い包められたのも、今はどうでもいい。
取り敢えず、ルネが心配だ。
そう思い、リリーは悪戯仕掛け人とともにルネの後を追ったのだった。
(貴女は大切な親友だから)
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