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「ふぅん。」

数秒して、彼女が呟いたのはそれだけ。
僕が目を見開いて彼女を見つめると、彼女と目があった。

どうやら、僕が此処に居るのを知っていたらしい。
薄く微笑んで、彼女は手に持っていた本をベンチに置く。
そしてゆっくりと立ち上がり彼女達の方へ向かった。気だるさそうに頭を掻きながら。

「嘘はよくないよ、諸君。彼女泣いちゃってるじゃない。」

そう言いながら、泣いている少女の肩に手を回して引き寄せた。

下級生の少女は一瞬、びくりと震えていたが、庇ってくれると知るや否や、涙を流し始めた。

「よしよし。怖かったねぇ。この人たち、顔が小鬼みたいだもんねぇ〜」

泣きじゃくっている下級生を宥めながら、とんでもない事を口走っている少女に、思わず僕は噴き出してしまった。
それは火に油だと思うのだが。

案の定、スリザリンの女生徒達は、顔を真っ赤に染めながら、黒髪の少女を睨みつけている。

「ちょっと。今の聞き捨てならないわ。小鬼みたいってどういうことよ!!」
「いや、だから、小鬼に顔が似てるねっていう。」
「そんな事聞いてないわ!!」
「え、今どういう事って言ったじゃん。」
「〜〜ッッ!!!何なの、あんた!!?どいてくれる!?それとも気絶して授業に行けなくなりたいのかしらッ」

怒り心頭と言った体で、杖を構える一人の女生徒。
泣いている少女は恐怖と驚愕に顔を歪ませるが、当の本人は露知らず。

「魔法はダメだよ、諸君。この子下級生だし。」
「あら、なら同級生の貴女にはしてもいいって事ね。」
「いや、それもどうかと、」

応えながら、彼女がローブに手を入れるのを僕は見ていた。
スリザリンの女生徒がソレに気付き、杖を振ろうとするが、

「エクスぺリアームス」

目にも止まらぬ早さで黒髪の少女が杖を振る。

その様は圧巻としか言いようがなく、杖を飛ばされたスリザリンの女生徒達は茫然と立ち尽くし、泣いていた少女は羨望と驚愕の表情で彼女を見上げていた。

悔しがる女生徒達に杖を向けたまま、豊かな黒髪を揺らし、彼女は微笑んだ。

「あんまこんな事してると、嫌われちゃうよ。…イケメン君に。」

つい、と。
彼女の視線が僕に向く。
ここで僕を見るな。
そんな事を思いつつ、苦々しい表情を浮かべる。

すると、スリザリンの女生徒達はソレをいじめに対する嫌悪と受け取ったのだろう。
羞恥と苛立ちに赤くなる面を伏せながら、パタパタと走り去って行く。

ソレを目で見送っていると、黒髪の少女と再び目が合った。

ナイス

と、彼女の口がかたどる。
微笑む彼女は、とても綺麗だった。

僕が苦笑しつつ頷くと、彼女は下級生に教室へ行くよう促した。
お礼を言う少女を見送った後、こちらを振り向く。

「君は行かなくて良いのかな?…レギュラス君。」

えっ、

思わず瞠目すると、彼女は意地悪そうな笑みを浮かべていた。

「グリフィンドール生を助けようとしてくれてありがとう。」
「い、いえ…結局僕は助けてませんし、」
「うん?でも君がいなかったらあの子達鐘が鳴るまで引き下がらなかっただろうし、助かったよ。」

あの子を余計泣かせずに済んだ
そう続ける彼女に、僕は目を瞬かせた。

不思議な人だ。
こんな人、グリフィンドールに居ただろうか…?

思っている傍から彼女は僕の手元から教科書を取り、しげしげと眺めている。
懐かしい、と言っているからきっと上級生なのだろう。

「あの、名前、聞いても良いですか?」

僕の問いに、彼女は片眉を上げていたが、やがてニッコリ微笑んだ。


「探してごらん。身近にいるよ、意外とね。」


そう言うと教科書を僕の手元に戻して、彼女は踵を返して歩いて行く。
思わず背中に声を掛けようとすると、それに気付いていたかのように、足は止めず、面だけ振り向いた。

片目を瞑ってから、優雅に微笑んで去って行く彼女。

その後ろ姿が廊下の角に消えていった頃に、始業の鐘が鳴り響く。
慌てて走り出した僕は、火照る顔を片手で覆い隠した。


(その目が、笑みが、離れない)


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