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「付き合ってる、か…」


どうして最初にその疑問が浮かばなかったのだろうと、自分を罵る。
だが、どう足掻いた所で後の祭りで。
彼女を好きになってしまった気持ちだけは消えてくれなかった。

以前友達が一目ぼれをしたと言っていたのを理解できなかったが、こんな不思議な感覚なのだろうか、とあてもなく思う。

浮かんでは消し去るのは総て彼女に通じる事。
誰と付き合っているのだろう、とか。
兄さんでなければいいなぁ、とか。
今日は会えるだろうか、とか。
話しかけてくれないだろうか、とか。

浮かんでは、消していく。
だって叶わないのでは意味がない。


「Mr.ブラック。聞いていますか?」
「…えっ」
「全く、何を呆けているのです。次は貴方の番です。杖をお取りなさい。」


そう言って先生はおもむろに僕に杖を向ける。あぁ、そうか。テストの番が回ってきたのだ。
朝予習をしたし、それほど難しい呪文でもない。何を間違えたのか知らないが、隣りの生徒の頭は焦げているが。

僕は気だるげに杖を構えた。
他の生徒も大して興味を示さない。早く終わってくれればいいのに。
そしたら、彼女に会える確率も増えるのに。



「Mr.ブラック!!!!貴方には罰則を与えますっ!夕食後ここにお出でなさい!!!」
「…はい。」


驚いたように目を丸くする生徒達。
そんな珍しいモノを見る様な目で見ないで欲しい。僕だって失敗くらいする。

ただ、…その。
机が壊れてしまったのは予想外だったが。

マイクは僕の隣でゲラゲラ腹を抱えて笑っている。
それが兄さんの幻影を映しているようで余計腹が立った。



「レギュラス!!今日のは最高だったぜっ」

次の教室へ移動する途中、僕の肩に腕を回しながらマイクはそんな事を言う。
大切な友人だが、殺気立ってしまうのは何故だろう。

「五月蠅いな。僕だって失敗ぐらいする。」
「まぁそうカリカリするなよッ!!俺も反省してるんだから!!」
「…反省?あぁ、笑いながら僕の頭を力加減なく殴って来て、危うく脳震盪を起こすところだった事を?」
「違ぇって!!それも悪いと思ってるけど、アレは仕方ねぇだろ。…くくっだってさ、いつもスカした面してサクサクやっちまうお前が、先生の目の前で堂々と机破壊してんだもんよ…笑わない方が可笑しいだろ!!」

言い切った瞬間廊下中に響き渡るような大声で笑う。耳元で笑うな。
そう言いたかったが、彼の腕が僕の背中を笑う度にバシバシと容赦なく叩いてくるので息が詰まる。もう悪意があるとしか思えないような馬鹿力だ。

ていうか、何だ、スカした面って。
いつも僕の事そういう風に見てたのか。

「はぁ、笑った…ってそうじゃねぇよ。」
「……何だよ。」
「お前が今日らしくもない失敗したのって朝俺が変な事言っちまったからだろ?」
「変な事?」
「ほら、ルネが付き合ってるってやつ。」

声を顰め、マイクが僕の耳元で呟く。

「…別に。」
「あん時の落胆の仕方ったらなかったもんなぁ…悪かったよ。」

彼が横でしみじみと語っている。
何で分かったんだ。
そんなに顔に出てたのか、僕。
マイクが此の事を吹聴するとは思わないが、何分、僕はこの手の事に免疫がないのだ。
どこぞの兄とは違って。

「しかし、お前のタイプがルネみたいのだったとはな。」

意外だと言わんばかりのマイクの言葉に僕は顔を顰めた。

「…何か文句でも?」
「そうツンケンすんなよ。なんつーか、ああいう性格の女って好きそうに見えなかったから。」

彼の言葉に引っ掛かる。
ああいうってなんだ、ああいうって。

「確かに面倒臭がりなところもあるのかもしれないけど、寮とか分け隔てなく接してるみたいだし(例・マイク)、自分の後輩を迷いなく守ってあげられるっていうのは中々出来る事じゃないだろう。それに魔法の技術も相当だったから、きっと素晴らしい魔女になれると思うよ。突拍子のない行動や言動も彼女の個性で素敵だと思うし、どちらかと言うと、その変わってる所が可愛いと、僕は思っ…」

思っ…思…?ちょっとまて。今僕は何を言っている?

途端に頬が熱を持つ。
今なら頬の上に鍋でも置いて、魔法薬の一つでも作れそうだ。
湯気でも出てるんじゃないかと錯覚する程の体温の中、隣りに並ぶマイクが目を点にして僕を見つめている。

余計居た堪れなくなって、彼の腕を振りほどき歩みを速める。すると後ろから追って来る足音。振り向かなくても誰かなんて分かってる。

「おい、照れるなよ。」
「照れてない。」
「嘘付け。鏡で自分の顔見てみろよ。」
「…っ〜〜!!」
「青春ってやつだなぁ…」

数歩後ろを歩くマイクがオッサン臭いセリフを吐いている。
なんなんだ、一体。

「そういうお前はどうなんだよ。」

歩く速度は止めず、後ろのマイクに問う。僕だけがこんな目にあってはあまりにも不公平だろう。

「え?言ってなかったっけ?彼女居るけど。」
「…は!?」

思わず足を止め振りかえる。
驚く僕を前に飄々としたマイク。

「い、いつから!?どうやって!?自分から告白したのか!?っていうかスリザリン!?」
「おい、落ち着けって。」

僕を慌てて宥めながらマイクは苦笑する。何だろう、この敗北感。悔しく仕方ない。
悔しいって何だ、悔しいって。
あぁ、もう訳が分からない。

「いつって、半年前…かな?コンパートメントで偶然一緒になった子がいて、何度か話すうちに仲良くなって、あっちから告白してくれたんだ。寮はレイブンクロー。今度会わせるよ。」

淡々と話すマイクに曖昧な返事しか返せない。そんな僕にマイクは苦笑した。

「レギュラス、お前ちゃんとルネと話した事あるのか?」
「一度だけ。…そんなにちゃんとした会話じゃなかったかもしれないけど。」
「なら取り敢えず、話す機会を設けて見たらどうだ?最初は友達から、だろ?」
「でも、彼女には恋人が…」

俯きながら応える僕に、マイクは「ははっ」と笑う。何が可笑しいのかと、眉を寄せて顔を上げれば悪戯っ子のような顔の彼。



「俺は略奪愛ってありだと思うけど?」



快活な彼がスリザリンに入った意味が此処で分かった。

しばらく、その言葉を理解するのに時間が掛かってしまったが、僕はその言葉をようやく呑み込み、頷いた。


(スリザリンの考え方も方便)



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