1話


「カトル!好きだよ!」
「うるさい」
「冷たい!まだ春なんだからあったかくしようぜ!」

高校二年生春、私はどういうわけかカトルに告白をし続けていた。
初告白の日から一年経ったけれども、前に向けられていた好奇のような視線はいつの間にか「またか」とでも言うように変わっているし、どこか名物化したらしい。
たかがこの告白で。不思議なものである。

「頭沸いてんのかお前」
「落ち着いた口ぶりなのに暴言吐いてくるの、私に対してだけで嬉しいよ」
「言語通じてないの?」
「通じてるから告白してんじゃん」

私はいつも通りのカトルの暴言を聞いて笑った。
何故か彼の暴言は心地いいのだ。
あ、Mとかそういうんじゃなくて懐かしい感じがして。

相変わらず元気だねえ、と返すクラスメイトたちに「当たり前じゃん」と返す。

ここで言っておくと、よく勘違いされるのだけど私は一回たりともカトルにたいして恋愛感情を抱いたことはない。

自分でも何故か分からないのだ。
そもそも自分が何故好きと言いたいのかも分からない。ただ、そう言わなければいけない気がしたから。そう言いたいから。それだけなのだから自分の気持ちというのがいまいち分からない。

つまるところ、私はそこまでこの告白に対して彼に「僕も好き」みたいな甘い言葉を言われる気は毛頭ない。

そもそも告白しておいてなんだけど、告白する以外に私は大して何もしていない。とんだ奴に告白されていて大変だなあカトル。

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早朝、叩き起されるように目が覚めた。

「……あー…」

夢を見ていた。顔はわからないけれど、そこには「彼」と「私」がいて、なぜだか幸せそうに過ごす夢。それだけなら良かったのに、「私」は途中で死んでしまうのだ。
「彼」は「私」に対してそのとき初めて涙を見せて、「私」はそれを見て少しだけ微笑んで、
「また君を好きにならせてもらうからね」
と口を動かすのだ。
そのとき「彼」は何と言ったか。
「__________」
その言葉を聞いた私は笑って、すぐにいつもの現実に引き戻される。

今回のは中々に鮮明だった。もう少しで彼の言葉を聞けたのかもしれないのに。無念。

幼い頃からこの夢を見ていた私は、彼を「運命の人」だと思った。
だから探した。そんな子供のことを両親は気味が悪かっただろうに、私のことを抱きしめて「ごめんね」と、自分に責任があるように泣いて言った。
そのとき初めて幼い私は、運命の人が存在なんてしていないことを悟ったのだ。

この夢を見るたびに、どうしようもなく「彼」の存在そのものを抱きしめてしまいたくなる。
存在などしない「彼」を、記憶に存在しない「彼」を、夢で感じたはずの声すらもわからない「彼」に、

私は確かに恋をしていた。