3話


「おはようカトル!好きだよ!」
「僕はお前が嫌いだよ」
「うっ、私の心に100のダメージが」
「与えられてないだろ」
「よく分かったね」
「さすがに分かる」
「え、まさかのネタ察知能力…新しい告白方法考える…?」
「告白するのやめろよ」
「無理だよ!これもう遺伝子レベルで告白染み付いてるんだから!」
「普通に気持ち悪い」
「だよねえ」
「お前の話してるんだけど」

カトルはため息をつく。

「ため息つくと幸せ逃げるよカトルくん」
「幸せが逃げたからため息ついてんだよ」
「まじか。私の分けてあげる」
「諸悪の根源の幸せ貰いたくないんだけど」

この子ひどい!と席についているクラスメイトに言うと「仲いいんだね」と言われた。何故だカトルくんや、なんでそんなに嫌そうな顔をするんだ。

__________

放課後、二人きりの教室といえば何かが怒る予感がある青春ランキングではトップに食い込める気がする。
つまり、何も起こらない意味の無い会話をするこの空間は青春からも遠くかけ離れているんだろうなあとよく分からない理屈を脳内で展開させる。

「カトルくんやい」
「くん付けやめろ」
「カトル」
「なんだよ」
「ずっと委員会の仕事してるけど疲れないの?休息大事だよ!私みたいにさ!」
「年中休息してるようなやつに言われても…」
「失礼だな!今日は放課後部活ないんですー」
「そういえばお前の部活、なんなの?」
「ボードゲーム部。みんなキャラ濃いよ」
「お前もヤバいやつだもんな」
「否定しない」

うちの部活くる?と誘えば彼は「吹奏楽部一筋だから」と返した。
そういえば吹奏楽部やってたのか、と片想いしている(設定)の乙女にはあるまじきことを思ってしまった。吹奏楽部のカトル…

「惚れる子多そう」
「は?」
「いやさ、カトルいい子だし厳しいけど隠しきれない感じがかわいいと」
「は?」

威圧感が上がっている。

「それくらいじゃ私は怖がらないぜ!カトルは可愛いからな!」
「気持ち悪い」
「やめろよ心から思った言葉みたいなの」

カトルは一等優秀だ。楽器は上手だし、頭もいい。顔も整っているし運動もできる。同年代から見れば身長も高い。

そんなカトルと恋人になりたい、友人になりたいと思う人は沢山いるんだろうな。
そしてカトルはそういうことに敏感で、ステータスのように自身と関わろうとする人間には冷たいし、敬語ではあるけれど侮蔑が滲み出ている。

そんな彼が、鬱陶しいはずの私と普通に話し、冷たさは多少あれど侮蔑はしない。
それが私はとても嬉しいと思う。

きっと今こうやって自身のパーソナルスペースに入れてくれているのは彼の分かりにくいデレの部分だ。うんかわいい。

一年生の頃なんて、周りもうるさかったし自分も何やってんだ自分、と自身に言っていた。距離は縮んだけれど、私はこれまでカトルとの関係性について考えることが無かった。

二年生になる日が近づくにつれて、周りも適応したし、自分も「そういうもの」だと理解し始めて、私はやっとこカトルとの関係性について考え始めたのだ。
その結果、私は本能みたいなどうしようもないところでカトルが好きなんだと理解をつけ、私自身がどうなりたいのかも考えた。

先程言ったように彼は魅力的だ。
けれど、そんな外の魅力というものしか見えない人は大分損をしていると思う。

彼の刺々しい言葉にはどこか優しさがあるし、しかめっ面でも口角はきちんと上がる。案外照れるしかわいい。

「あのさカトル、」
「なんだよ」
「友達になろうよ」
「は?」
「だからさ、友達になろう」

私はそんなカトルと友達になりたいのだ。

「…嫌だ」
「なんでさ」
「なんかお前とは友達になりたくない」
「傷つくなあ」
「お前と友達っていうのは…なんか…ちょっと違う気がする」
「そのこころは」
「よく分からない」
「釈然としないなあ」
「まあつまりお前と友達は嫌だ」

完全なる拒否である。
でも私は引き下がるのは得意ではないしする気もない。

「ふむ…うん分かった!親友になろう!」
「話聞いてた?」
「もちろんだよ!Of course!」
「発音がうざい」
「ところで親友!もうすぐあるテスト教えて!」
「親友じゃない。お前それが目当てだろ」

教えないから、なんて言ってどうせカトルは教えてくれるからやっぱりかわいいなあと思うのだ。

______

「そもそも体育祭直後にテストがあること自体おかしいと思うんだよね、灼熱の炎天下後にペーパーテストなんて出来るわけないじゃん」
「お前はまともに勉強をしろ」
「分かんないんだよ、数学って国語みたいに答え書いてあるわけでも歴史みたいに流れが掴めるわけでも理科みたいに記憶力がものを言うわけでもないじゃん」

歴史と古典と現代文は得意なんだよ、地理は知らないけど。

親友はストイックだもんなあ、といつも通りガリガリとシャープペンシルを動かすカトルに言うと親友ではないと返された。なんだかんだ勉強教えてくれてるんだから親友発言にも同意したものかと思ってたよ。

「まず公式の使い所。さっきから思ってたけどなんで簡略化できる所しないんだよ。難しい問題ならまだしも、簡単な問題まで力技みたいに解くのやめろ」
「力こそパワー」
「…教えるのやめる」

カトルが席を立とうとする。
やめて見捨てないでくれ親友。

「やめないでくださいお願いします数学のみに絞りますからお願いします」
「じゃあとりあえずそこのアメしまえ。勉強する気あるの?」
「バレてらあ」

特に根拠はないけどカトルがお兄さんみたいだと思った。

「カトル、弟か妹いる?」
「…は?」
「は?って答える率高くないかいカトルくん」
「うるさい。…いるよ」

そうきけば少し懐かしむような、それでいて悲しそうな表情をしてそう言った。
少しの間沈黙したことは、触れない方が良いのだと思った。