前世の話




「何してるんだよ」

特に何もない日の昼下がり。
私は愛しのカトルに声をかけられた。

私はそのときに柄にもなくせっせと紙に文字を書き付けていた。

「ラブレターだよラブレター」
「誰に」
「カトルに決まってんじゃん」
「だろうな」

さも当然、分かっていたとでも言うようにカトルは不機嫌そうにした。

「嫌だなあ、送り付けようなんて思ってないよ」
「は?」
「このラブレターは空に飛ばすの」
「なんで」

想いを、気持ちを全てのせて書いたそれら。

「最近ね、カトルの隣にいるだけじゃだめだって、好きって伝えるだけじゃ足りないって思っちゃうから」

君の目指すことに私は邪魔で、私はそれをきっと分かっている。
君は優しいからラブレターだって受け取るし告白だって、会話だって聞いてくれる。

「私はこれ以上さ、カトルに願いを叶えられちゃ困るんだよ」

人間は、というか私は随分と欲深い生き物だ。

相手が困ることを言って、それなのに会話までしてくれる。
それだけで満足できるような綺麗な感情のまま、私は君に恋をしたいのだ。

ラブレターの中身は私の想いだ。愛だ。どうしようもなく熟しきった心は捨てるべきなのだ。

「___だから、想いを飛ばそうと思って」
「想いを、飛ばす…?」
「想いを忘れられるかなって、思って」

私は手紙を飛行機の形や鳥の形、色々な形に折る。

それら全てが私を形どったような気がした。
私はそれを持って共用スペースから騎空艇の甲板まで移る。

強い風が吹いた。
私が抱えた想いたちが、蒼い空に溶けていくようで綺麗だった。

ばいばい、と言おうとする。

「待てよ!」

ずっと無言だったカトルが手紙を飛ばし続ける私を止める。

きっとこうすることに意味はない。きっと私はカトルが好きなままであるし、欲張りのままなのだ。

その証拠に、今触れられた肩が熱い。

なのに、なのに。なんで君はそんなに、

「なんで寂しそうな顔するの」

ひどいなあ。
いつもの君なら馬鹿らしいって、アホくさいって言って少し優しく笑うはずだ。

わたしの恋が消えたとしても君の道に邪魔者が一人消えるだけなのに。

「待ってて」

それはいつになるのだろう。それまで私は恋を捨てたまま君に恋をできるのだろうか。

「難しいこというね、邪魔者に待てなんて」
「違う」

なんか君全体的に言葉が足りなくないか。お姉さんまったく分からないよ。

「何が」
「だから、お前は!」

語気が強まる。けれどそれはいつもの罵倒なんかより力がない。

「だから、邪魔者じゃないって言ったんだ」

だから、待ってろなんて。

遠い遠い未来の話を君はなんでそんなに苦しそうにするんだろうか。

「なにそれ、へんなの」

言った言葉は思っているよりずっと力がなかった。

カトル。

君の言ういつかまで、私は恋を捨てずにいられるだろうか。

君の言ういつかに、私は存在するのだろうか。

そんなことどうでもいいと、そうは言ってくれないのかな、なんて。

全く本当に馬鹿でアホくさいのだ。