6話
君の隣にいたいなあ。願わくばずっと。
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「おはよう好きだよカトルくん。旅しない?」
『朝っぱらから頭沸いてんのかクソが』
いつもの口調より暴言1.3割増しくらいだ。
「なんかごめん」
早朝朝5時45分。私は先日交換した連絡先からカトルに電話をしていた。
『寝かせろ』
確かにこの時間に電話したのはダメだったね、部活休みの日にたたき起こしてごめん。
「ごめんて」
『…反省の色が見えないから行かない』
「行くこと検討してくれてたのかよほんと良い奴だな親友!」
『うるさい。なんで突然』
「テレビで見た森が綺麗だった」
『…寝る』
「嘘だよごめんて!」
『なんなんだよ!寝かせろ!』
「睡眠欲に飢える社畜かよ親友」
『あ゛?』
待ってその朝のかすれた声の低音ボイスでその言葉はちょっと怖い。
「いやあ、昨日の分の配達物取り忘れてさ、届いた封筒に青春きっぷとやらが2枚入ってたんだよね」
調べたところ1枚あたり諭吉一人と英世一人とちょっとするくらいのお値段だったから今日ヒマであろうカトルを誘った。
『知らねえよ…』
「見捨てんなよ!私は諭吉と英世を愛してるんだ!樋口さんも!」
あとマイナーだけど紫式部も!と私は勢いで言う。
『がめつい』
「褒めてる?」
『頭沸いてんの?』
「その言葉好きね」
『ワンパターンって言ってんなら殺す』
「不穏な言葉やめて」
閑話休題。
「行こうよ」
『お前本当に国語得意なの?』
文脈を察せと言うわけですね、分かります。
「日帰りだからさ、ね?」
『……時間は』
「6時半!学校の最寄り駅前!」
『早くない?』
「遠いところ行くからね」
『…』
「待ってるね!」
『おい!』
私はガチャっと電話を切った。
迷惑行為してすまないな。
私は鼻歌を歌いながらリュックに適当なものをつめ始めた。
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「_______やっぱり来てくれた」
私はニカッと笑う。
まあカトルは来てくれるんだろうなって思って誘ったから、悪いやつでしょ、私、と私は宣った。
「遅い」
カトルは口を開いた。7時きっかりに来たんだけどな。5分前行動よりきっかりの方が難しいんだよ。
「朝っぱらからごめん。じゃあ行こうか」
私たちはホームへ歩き出した。
「朝ごはん食べた?」
「お前が突然言うせいで作る余裕なかったんだけど?」
「すみませんでした」
私は家から持ってきたブロックのバランス栄養食を切符と一緒にカトルに渡す。
「心配しないで未開封だから」
「開封してたら頭を疑う」
「ですよねー」
電車は6分後に来るらしい。
改札口を通過してホームに靴底を着けた。
「夏休み始まったばっかなのに朝から暑いねえ」
「大人しくいつも通り家に引きこもっとけよ」
「いや私今日を逃したら夏休み中部活の日以外引きこもりフルコンボ達成する可能性が格段に上がるから」
うわ…と言って、カトルは電光掲示板を見たあとに私が渡した栄養食の小袋を開けた。
ホーム内にあるコンビ二に置かれた梅菓子を私の目が発見する。
「私ちょっとそこの店で梅菓子買ってくるけどカトル水とか持ってる?」
「ある」
「了解」
私はリュックサックから交通系のICカードを取り出し、コンビ二で目当ての梅菓子を購入する。
そのときに今月発売の好きなマンガの新刊を見つけた。
「______なんで自ら荷物を重たくする真似をするんだよ単細胞?ミジンコ以下?」
「ミジンコは多細胞なんだぜ!といつもはこういう煽りに煽り返すのにそれすらも完封してくるのやめて…」
「あ、でも単細胞の方が一つの細胞の働きだけでいえば優秀だから褒め言葉…?」
「罵倒を掘り下げるより他にすることないのかよ」
「いやまあ…ね?電車に乗ればこっちのもんだから」
私とカトルがこうも電車の中で話せるのには理由がある。
と言っても、この電車に乗っている人が少ないと言うだけなのだが。
電車が駅に停車する。ちなみに目的地の駅ではない。
「どこ行く予定なんだ」
「県外ー」
「それは何となく察してる」
具体的にと言ってくるカトルに私は、まあ着いてからのお楽しみって感じでいいんじゃん?とあやふやに返した。
期待値上げてる感じだけどあんまり期待しないでほしい。
私はさっき買った梅菓子を一つ口に入れた。
しょっぱさがとても美味しかった。
再び加速を始めた電車の窓から見える景色が変わっていく。
空が晴れ晴れと蒼く透明だった。
隣に座る青年を見て、隣にいることを許されているんだなあと自然と口角をあげてしまった。
「何笑ってんだよ気持ち悪い」
「いや、なんか、よくわかんないけど、嬉しくてさ」
よく分からない達成感が胸に少し芽を出した。何故なのか。
「なんか少し、願いが叶った気がしたんだよね」