どっちかって言うと嫌

「遥ちゃん」
「白石。千歳見かけた?」
「おらへんなぁ。ほんま、手ぇかかる子で悪いわぁ」

千歳が転入してきて一ヶ月が経った。隣の席というだけで先生方に『千歳のお世話役』という仕事を無理矢理与えられた私は、休憩時間のたびに千歳を探し回っていた。

どうやらテニス部の部長、二組の白石も同じような役割を与えられたらしく、毎休憩のように私と同じように学校を探索している。

悪いなぁ、て。白石が悪いわけではない。悪いのはあの恩知らずの千歳千里だ。聞いた話ではテニスはちょっと上手いらしいけれど、練習にも真面目に参加しないと聞く。

「あんなんがレギュラーでええの」
「うちは勝ったもん勝ちがモットーやからなぁ」
「千歳てそんな強いん」
「まぁなぁ、試合観たら解るわ」

地区大会観にくるかと尋ねられ、大きく首を横に振る。テニスのルールなんて知らないし、日焼けもするし。

何より千歳を観に行くという行動の意味が解らない。折角の休みは自分の為に使いたい。そう、本音を言うなら今だって。

けれども見つけられなければ、授業の最初に頼むで野田と先生に言われる。そうすると、何故だか無性に申し訳ない気分にさせられるのだ。

「ほんま千歳、きらい」
「はは、千歳が聞いたら泣くでぇ。千歳、遥ちゃんのこと気に入ってんのに」
「何で気に入られたんかも解らんけど、気に入ったなら私の言うこと聞けっちゅーねん」

舌打ちをすると、白石に女の子がそんなんしたらあかん、と怒られた。真面目だ真面目だとは思っていたけれど、本当に細かい。

屋上へ向かう階段も、中庭の木も見て見たけれど、千歳はいなかった。全く、一体どこへ行ったのか。

「遥ちゃん、さっきのどこまで本気なん?」
「どこまでて?」
「や、千歳が嫌いってどのレベルくらいなんかなぁ、て」
「好きか嫌いか聞かれたら、嫌い」
「極端な二択やなぁ」

白石がそう言って笑うと同時に三限の始まりを告げるチャイムが鳴った。結局千歳は見つからなかった。

ああ、また先生に諦めにも似た嘆願をされるのか。そう思うと胃がずしんと重くなる。

「好きの反対は嫌いなんやな。興味ないとかや無くて良かったわ」
「どういう意味」
「ほなまたな、遥ちゃん」
「え、ああ……ほなまたね」

私の頭をぽんぽんと叩き、白石は自分の教室に入って行った。その姿を見ながら私も教室に入ると、自分の席の横にあのでかい図体の奴がこちらに手を振って笑っている。

興味ない、て言えたらどれだけ良かったか。もう私にはあの顔を見てそんなことを思える余裕はなく、沸々と湧き上がる苛立ちに眩暈がした。

(20120722)