こわいとはすこし違う

好き、って、なんや。

千歳の言う好きの意味が理解出来なくて、私は授業中もぐるぐるとそのことばかりを考えていた。隣の席に千歳は戻ってきていない。結局、あの後逃げるように教室に戻ってきた私を千歳は追っては来なかった。

四六時中一緒にいたくて、顔が見たくて声が聞きたくて、一言会話を交わせられればそれだけのことに胸がいっぱいになって。好きってそういうもんちゃうの。

だけど千歳と私が一緒に過ごす時間なんて、毎日ほんの少しだ。千歳の言う『好き』が都合の良い時に隣にいてセックスするような、そんな意味での好きであるならば。そんなものは、『私を好き』だとは言わない。



「遥ちゃん、今帰り?」
「うん。白石はこれから部活?」
「そろそろ追い込みや、もうすぐ全国やし」

家路につこうと鞄を持って下足箱に向かう途中で、黄色が目に鮮やかなジャージを着た白石とすれ違う。

彼とは千歳の世話係として知り合ってから、校内で出会えば何気ない世間話を交わすのが習慣になってしまっていた。

「千歳、さっき部室におったわ」
「めっずらし、今日の授業は全滅やったのに。真っ昼間から盛ってるしほんま……」
「はは、財前から聞いたわ。第二美術室とかほんま、どこで情報仕入れてくんのやろなぁ」

第二美術室と聞いて、昼間の事を思い出し顔が熱くなる。昼にあんなことをしておきながら夕方には平然と部活をしているなんて、おぞましいとすら思ってしまう。

ひどい顔をしていたようで、白石に何やねんその顔、と笑われた。ひどい顔にもなるわ、あんなとこ見せられて、あんなこと言われたら。一日そのことで頭いっぱいやし。

「千歳はなぁ……不器用かも知れんけど、遥ちゃんのことは本気みたいやで」
「本気て何、私としたいってこと?」
「ちゃうちゃう、本気で好きやってこと」

白石の言葉に、背筋がぞくりとした。人に言われるとここまで生々しく聞こえるものなのか。怖い、というよりかは、重い、に近い気持ち悪さが胸を襲う。

白石までアホなことを言ってもらっては困る。あいつの本気なんて、正直なところ誰も見たことは無いだろう。それほど掴みどころの無い奴なのだ。

「ほな俺行くわ。たまには部活観に来ぇへん?」
「何で私が……」
「一回観てみたらええわ、千歳のテニス。考え変わるかも知れへんし」
「変わるとは思われへんけどなぁ」

でもまぁ、昼に助けてくれた財前もテニス部だったはずだし、御礼を込めて彼にジュースでも買って行こうか。

一度くらいは千歳が活発に動いている姿も見てみたい気もするし、財前のついでに千歳を見るのもいいかもしれない。

そう考えて自販機でジュースを二本買い、私はテニス部の方へと足を向けた。

(20120728)