恋なら間に合ってます

「千歳ー、荷物これで全部?」
「え、ああ、うん」

無事に四天宝寺を卒業した千歳は、学校の寮を出て進学する高校の近くに狭いアパートを借りた。広さはほとんど前と変わらない四畳半。そして今日はその引っ越しの日。

引っ越しはすぐに終わった。なにせ、物がほとんどなかったから。寮から持って来たのは布団と冷蔵庫、テニスバッグと服、それからカラーボックスくらい。

部屋に前とほとんど同じような配置でそれらを並べた。そして最後にカラーボックスの横に、千歳が荷物を運んでいる間に私が組み立てたばかりの同じものを一つ並べる。

「うん、まぁ並べたらちゃんと棚らしくなるやん」
「遥ん棚、こんだけで足りると?」
「高校のもんがちょっと増えるやろけど、充分やろ」

増やしたカラーボックスの中に、化粧水と筆箱、携帯の充電器を入れた。三段ある棚は一段も満足に埋まらない。

持ってきた当面の着替えを鞄から取り出し、押入れに入っている衣装ケースに突っ込んだ。千歳と二人分合わせても、衣装ケースは一つで充分だ。

「お疲れ、まぁ疲れるほど動いてへんけど」
「なら疲れるこつ、する?」
「はは、んー……どないしよ」

二人して畳に寝転がっていると、相変わらずの事を千歳は言った。今となってはもうそれは冗談ではなく、何度も行為を交わした上でのやりとりになっている。

傍にいてあげる。去年の夏、千歳にそう言った。それからは学校のお昼やら放課後やら、休みの日でも呼び出されれば千歳の所へと行った。卒業してからは、ほぼ毎日千歳の寮に泊まり込んでいた。帰らせてもらえなかった、という方が正しいけれど。

勿論そんなに長く一緒にいれば、向こうだって手を出すというもので。私も心の何処かでそのうちヤることになるんやろなぁ、なんてことを考えなかったわけでもなくて。

放浪癖は相変わらずで、授業はさすがに中三の二学期以降は真面目に出ていたけれど、休憩時間や放課後にふらりと、私に何も言わずに何処かへ行ってしまうこともままあった。

傍にいて欲しいんじゃなかったのか、とも思った。けれどもきちんと私の所に戻ってくる千歳を、好いとう、と切なげな声で訴える千歳を、私は突き放すことが出来なかった。

「それにしても良かったなぁ、一般で受かって。まぁ千歳、勉強は出来んわけちゃうもんな」
「遥と同じ高校行く為やけん頑張ったと」
「ほな高校も頑張ってやー、中学と違て出席日数足りんかったら留年すんで」

勿論中学でも留年はすることはするが、ほとんど無いと言っても過言ではない。千歳もそれを解っていたから、夏前にあんな態度だったのだろう。

私は千歳を突き放せない。置いて行きたくもない。愛だの恋だのという気持ちでは無いと、相変わらず自分には言い聞かせている。

だからこそ、体を許した。行為には流されても気持ちが流されなければ、私の気持ちが恋愛ではない証拠になると思ったから。

「遥、好き」
「んー……」

寝転がったままで、私の指に千歳の指が絡められる。ゴツゴツとした指が、大事な物に触れるようにあたしの指をなぞる。

それがくすぐったくて、静かに瞳を閉じた。息を吸い込むと、い草の独特の匂いが鼻につく。背中に回った千歳の手が、下着のホックを外して背筋をなぞった。その感覚にぞくぞくと身体を震わせる。

食べられるんじゃないかというくらいのキスの後に目を開けると、見慣れない天井が視界に飛び込んでくる。小さな小さな四畳半。ここが今日から、私と千歳の世界。

(20120825)