この色を君に見せたい

気付いた所で、知ってしまった所で。果たしてその感情を一体どうするというのか、今更。正直に言えば、千歳は喜ぶだろうか。素直に信じてくれるだろうか。

「なぁ、謙也どうしよう」
「何が?」
「私、千歳のこと好きかもしれへん」
「え、自分千歳のこと好きやなかったん?」

二年生の二学期、期末考査が先日から始まっていて、次の英語が終わればその苦しみからも解放だ。私は謙也と座りながら最後のノート確認をしていた。

ずらずらと並ぶ英語をただ何となく眺めながら、ぽつりと謙也に呟くと、謙也は目をぱちくりとさせながら、机にずいっと乗り出してそう問いかける。

「……好きやと思ってたん?」
「そらそうやろ。だってやで? 一緒に住んで買い物行って弁当も一緒に食ってんのやろ?」
「せやね」
「付き合ってへんっちゅーんもおかしな話やなぁとは思っとったけど、まさか好きって自覚したんが今って。ありえへん」

呆れるように首を横に振ると、謙也は手元の単語カードに目を移した。謙也の金色の髪がきらきらと窓からの日差しに反射して、目の奥が痛かった。

私にとっても、これはありえへん展開だ。まさか好きになるなんて、中三のあの日、初めて千歳と会話を交わした日の私はとても思っていなかっただろう。

「で、どないするん」
「……どうって」
「告白するんかっちゅー話や」
「したほうがええ?」
「そらそやろ」

そうやんなぁ、と溜め息を吐くと、謙也はまぁ頑張りや、と私の頭にぽんぽんと手を置いた。それと同時に先生が教室に入って来て、慌ててノートを鞄の中へと突っ込む。

配られる答案用紙をぼんやりと眺めながら、今頃千歳もこの答案に向かっているのだろうかと考える。考えた所で、ハッとする。

私、どれだけ千歳のことを考えているのだろう。今はテストなのだから、集中しなければ。これが終わったら冬休みが待っている。

お正月は家に帰ろうか。でも千歳は帰らないだろうから、一緒にいたい。あの部屋で千歳を一人にするのは心苦しい物がある。

その前にクリスマスか。ケーキを焼けるような設備は千歳の家には揃っていないから、ケーキは売っているもので良いだろうか。



「……ほんで、千歳にクリスマスプレゼント選ぶんついて来てくれって?」
「白石やったらセンスも良さそうやし、千歳とよぉ一緒におるから好みも解るやろ?」
「テストん時にそんなん考えとるとか遥ちゃん余裕やなぁ」
「まぁ、赤点やなかったらええねん」

テストが終わり、白石のクラスに足を向けた。私から白石を尋ねて行く事も珍しいので、教室の扉の前に立つ私を見た白石は、朝の謙也と同じように目を丸くしていた。

おずおずと千歳にクリスマスプレゼントをあげたいと白石に告げると、今まであげたことなかったん? と半ば呆れた声で聞かれる。

中三の時も、高一の時も。クリスマスの日は学校が休みだったから多分家で一日だらだらと、いつもと同じ休日を過ごしたはずだ。眠かったら目を瞑り、相手を求めたくなったら貪り、肌と肌でお互いの体温を奪い合っていたのだろう。

「ええんちゃう、千歳も喜ぶと思うで」
「あ、明日千歳、昼から病院の検診あるから、その間に行こうと思ってるんやけど」
「ほな明日、選ぶん付き合うわ。多分部活も昼休憩やし」
「ええん? せっかくの休憩……」
「ええでええで、やっと遥ちゃんが自覚してくれたんやから」

それだけ言って、白石は私の頭をぽんぽんと叩いて微笑んだ。謙也といい白石といい、私を少し馬鹿にはしていないだろうか。けれども感謝しなくては。一人では悶々と悩んでしまって、きっとプレゼントを選ぶなんて出来やしないだろうから。



「……今日はまた、随分と豪勢やね?」
「クリスマスやからなぁ、まぁたまには」
「遥、クリスマス興味あったとや?」

クリスマス当日。朝からそわそわとしていてもたってもいられなかったので、料理で気を紛らわせる事にしたのだ。部活で疲れていたのか、夕方近くまで布団から千歳は出て来なかった。

鶏の丸焼きは無理なので、唐揚げ。サラダにスープ、ケーキを小さなテーブルの上いっぱいに広げていた。副菜や汁物なんて滅多に作らないからか、眠そうな目を擦りながらも、千歳は驚いた表情を見せた。

「食べる前に、千歳に、これ」
「これ……って、遥が、俺に?」
「買ったもんやけどな。あんた、いっつも首元開いた服着てて寒そうやねん」

結局、シンプルな無地の、紺色のマフラーを選んだ。千歳の髪の色に似ているな、と一目見て惹かれた色だった。きっと千歳も気に入るだろうと、白石も言ってくれた。

持ち帰って自分の衣装ケースの、一番奥にこっそりとしまい込んでいた。早く渡したくてたまらなかった。

「遥っ、ありがとね! 俺、なんも用意ばしとらんけど……」
「ああ、ええよ、そんなん。ほら、早よ食べよ」

渡したら渡したで気恥ずかしくなり、千歳の方を見ないように自分のお箸を握って唐揚げに手を伸ばした。頬張っていると、唐揚げでぱんぱんに膨れた方の頬に千歳が口付ける。

「なん、やねん……」
「あは、お礼たい」
「自分がしたかっただけやろ……」

(20121020)