──ほう、成る程。
では貴方は彼のことを私に訊くために、わざわざこのような辺境までお越しになったと仰るのですか。
良いでしょう。真実とは言い切れませんが、私の知っておることを、お聞かせ致しましょうか。そうですね。先ずは出逢い、それから彼の人となり。其処から始めるとしますか。
では、暫しご静聴願います。
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覚えておりますとも。ええ、それはもう、ようくね。あれは確か、雪の季節の事だったと記憶しております。臭いや色の無い、白の世界が始まり出すと同時でした。
彼は私の家の戸を、たった一度だけ叩いたのです。本当に軽くね。下手をすると、いえ、大概は風のせいかと思ってしまう程の、小さな小さな音で御座いました。
「はい。どなたか御用でしょうか」
「悪いんやけど、同じ寺で学んどるもんなんやけどな、この冬だけ、ここでご厄介にはなられへんやろか。金は必ず工面するさかい」
私は週に三度、近くの寺で文字の読み書き、兵法、剣術、作法なんぞを習いに行っておったのです。
戸を開けると、確かに、同じ寺で見かけた事のある顔で御座いました。この辺りでは聞き慣れない独特の、大坂や京で聞くような言葉を使う彼の良い噂は、あまり耳にしたことは御座いません。
どうやら彼は孤児であったようです。戦だか焼き討ちだかで、家も、両親も、故郷も、何もかもを失ったと聞いておりました。そしてそのまま、この地まで逃げて来たと。
可哀想だと思った事は、勿論あります。ええ、それは同情というものだったと自覚しております。
彼は決して裕福な生活をしてはおりませんでしたが、ある方に拾われ、二人で生活をしていたようです。
彼も私も十代半ばで、まだ元服も済ませてはおらぬ年でしたから、一人で生きていくのは大変なものでした。ですから彼にとって、その方の存在がとても大きなものだったという事は、私にも想像は出来ます。
私も一人で暮らしていた身。父も母も兄弟もおりませんでした。けれども家と財はありましたので、それなりの生活は送れていたわけです。
彼一人住まわすのは困難ではなさそうでしたので、私はその冬を彼と過ごすことに致しました。住まわせるとなると途端に気になるもので、私は尋ねてみました。
「何かあったのですか。あの方とは、住まないことになったのですか」
二、三度あの方を見たことが御座いましたが、私たちよりは僅かばかり、そうですね、二つほど年上のようでした。身よりのない子供を一人、養えるのも当然といったような着物をお召しでした。
彼がそれなりに博学であったためか、あの方は彼とよく話をし、頼り、そして可愛がっていたように思えます。ですから、彼があの家を出て来た理由が、私には解らなかったのです。
「少し、いや、なんも」
彼は口ごもり、その日はそれきり話そうとはしませんでした。私も、特にこの日に無理をしてまで聞き出そうとは思いませんでした。
それは、気にはなりましたよ、勿論。けれども、やはり人は入り込まれたくない領域というものを持っているものですから。
そういうわけで、私と彼の同居と相成ったので御座います。
(20120729)