1人1柱

何も知らずに放り込まれた空間の先、平安時代の寝殿造りのような御殿で待っていたのは、鶴丸国永の本霊だった。彼は私を見るなり、人懐っこそうな笑顔で、これからよろしく頼むと笑った。とてもうつくしい笑顔であった。初期刀を与えられなかったのはこのためかと一人で納得し、これからは国永様と少しずつ刀剣を増やし本丸を運営するのだと信じていたのだ。彼の口から、まぐわい、という言葉が出るまでは。

「え…?」

「何だ、時の政府とやらから説明はなかったのか…要するに君は俺の番に選ばれたのさ」

「つ、番ですか…?」

「ああ、俺の番だ。分霊の母とも言えるな」

「…あの、意味がよく…」

軽快に笑った彼の言葉が入ってこない。分霊の母?番?いったい何の話だろうか。丁度その時、何もない空間で鈴の音が鳴った。首を傾げていると、急に肩を押されて床に寝転ぶ。いつの間に用意されていたのか、私の下にはシミ一つない布団が敷かれていた。押し倒した張本人は未だに混乱する私をよそに、ずっと愉快そうに笑っていた。

「おっと。早速、といったところか…まあ物は試しだ、妹背殿。なあに、悪いようにはしないし緊張することはないさ。俺に身をゆだねてくれ」

言い終わるが早いか、国永様はその日私を抱いた。混乱と恐怖、痛みしかない中で、肌を暴かれた。行為後、震える私を優しく抱きしめた彼は、分霊を降ろすにはヒトの胎を借りるのが一番手っ取り早いのだと、言った。力を分けてやるのも勿論問題ないが、それだと本霊の一部を貸し出すようになるため、降ろす数に限りが出てしまうそうだ。だからこそ、彼らはヒトとまぐわうことで胎へ神気を注ぎ、審神者の霊力も借りながら分霊を形作る。また分霊も一度胎に宿ることで、顕現後はヒトの感覚を得やすいのだそうだ。その時漸く思考が追い付いた。つまりは分霊を降ろすために遣わされた、体のいい贄ということだろう。この行為には愛情も思いやりも何もない。それを知ったときは絶望しか感じなかった。


リン…と、何もない空間に鈴の音が響く。その音を聴くと身体が強張ってしまうのは、今までの経験から当然の反応だろう。あの音は分霊を呼ぶための合図のようなもので、それが鳴る度彼はここへ私を暴きに来る。本霊とまぐわう事で分霊が生まれ出ずるなんて、ここへ来て彼に抱かれるまで何一つ知らなかった。キュッと着物の袂を握り引き寄せる。あぁ、彼が来てしまう。また、熱もなく暴かれるのだろうか。ともすれば逃げ出しそうになる身体に鞭を打ち、逃げたところで無駄だと言い聞かせる。ここは鶴丸国永の聖域。この部屋を飛び出したところで彼には私の居場所が手に取るように分かるだろうし、逆に鬼事かと楽しんだ挙句難なく捕まって引き戻される。前もそうだった。いつだったか、耐え切れずに黙って部屋を出たことがある。もう少しで来たときに通った鳥居へたどり着くという時、強い力で腕を引かれ、気づいたときには息を埋め尽くすほどの白銀の中、ただ怒りをたたえた金色だけが見下ろしていた。逃げるのか、と問われ、その剣幕に何も答えられえず、ひたすら謝罪の言葉と許しを請うた。ごめんなさいと泣きじゃくっても離してはもらえず、それどころか鳥居の近くで体を暴かれた。ただただ怒りをぶつけるような行為は何も生まず、何も考えたくなくてずっと目を閉じていたけれど、その後、気を失ってしまったらしい。次に目を開けたときには、いつもの部屋に寝かされていた。あんな体験は二度と御免被りたい。

しゃらしゃらと近づく鎖の音。それがぴたりと襖の前で止まり、ゆっくりと開かれた先に見慣れた白が浮かび上がった。私が大人しくそこに座しているのを見て、ニンマリと国永様の瞳が笑う。一瞬だけ見えた、ホッとしたように息を吐いたように見えたのはきっと見間違いだろう。

「今日は逃げずに待てたようだな、えらいえらい」

「…あの…国永様」

「ん、どうした?あぁ、隈が酷いな…可哀そうに」

目の前に同じように腰を下ろした彼は、私を愛おしげに抱き寄せてその腕の中へと囲う。目の下、隈ができているであろうその場所を、白い指が割れ物を触るように優しく撫でた。熱を起こすような触れ方。すまないと言いつつ、彼は私の肌を暴くことはやめない。嫌だと腕を突っぱねても、これ以上は止めて欲しいと泣いても、ただ笑って私を責め立てるのだ。今夜もそうなるのかと、顔を俯かせていると、彼の指が顎をさらって、そうして吸い込まれるように唇を合わせられる。最初は食むように優しく、次第に貪るようなそれに変わり、舌を擦り合わせる。うねうねとうねるそれが唾液ごと呼吸を攫っていった。ちゅくちゅくとなる水音に反応してか、体の中心で熱が灯ったのが分かる。思わず足をすり合わせた。片手は顎に添えられ、もう片方は首から胸を辿り、着物の合わせ目の中へと消える。肩を撫でられる動作で着ていたものを取り払われた。

「んぅっ…、は…っ」

「はぁ…、ん、どれ…こっちも触ってやろうな」

乱れた呼吸の合間にそういって笑った国永様の手が、既にむき出しとなった胸に触れる。なすがまま彼の行動に身をまかせるしかない。最初は指先で丸い輪郭をように撫でられ、そっと握り込まれる。指先で肌をなぞっては握り、握ってはまた肌をなぞっていくその動作が酷くもどかしくて、そんな時不意に指先が乳首を捉え思わず押さえていた声が漏れた。

「−−っ、ぁ…!」

それに機嫌をよくしたのか国永様はにんまりと笑うと、私に自分の太ももを跨がせ向かい合わせになるように抱き直す。そのため、彼の眼前に私の双丘が晒されて恥ずかしい。弱々しく彼の肩に手をついて抵抗して見たけれど効果はなく、むしろお仕置きだとばかりにつん、と立ち上がった先端に彼は顔を寄せ、見せつけるように舐めしゃぶった。

「ん…ちゅっ…」

「っ、あ……〜〜っ!!」

「そら、我慢何てしなくていいんだぜ?折角の可愛い声だ。俺に聞かせてくれると嬉しいんだがなあ」

「、やっ…」

「ははっ…嫌かい?ここには俺ときみしかいないのに、何を恥ずかしがっているんだか」

見せつけるように視線を合わせながら、赤い舌先を伸ばされて恥ずかしさが増す。押し込んだり、吸い付いたり。終いには甘噛みをされて軽く気をやってしまった。国永様はビクビクと震える私を見て一層その瞳を細める。そうして互いの熱を擦りあわせるように、腰を動かし始めた。彼の怒張したものが、私の濡れたそこへと擦り付けられぐちゃぐちゃとはしたない音を立てている。下着なんてとっくに取り払われていた。いつの間にまだ慣らしてもいないのに、彼が欲しいとヒクつき収縮を繰り返す。顔も見られたくなくてせめてもの抵抗にと国永様の肩に顔を押し付けて耐える。それが失敗だったと気付いたのは、彼の熱っぽい吐息が耳元で零れた時。普段は息をする音さえしないのに、耳を掠る呼吸と熱気が更に熱を寄越しては、上りきれないくらいの弱い快楽を置いて行く。かりっと耳を甘噛みされて、より一層感覚が鮮明になり自分の意識とは裏腹に、勝手に腰が動いた。国永様が声を殺して笑った。

「、はっ…ん…自分で腰を揺らしてだいぶいい具合じゃないか。偉いなあ、君のここはちゃんと俺を覚えているんだな」

「や、そな…ことないっ…んああ!」

ぐっと腰を押さえられ、体の中心に彼の熱を当てられる。ぐりっと押さえつけられて背中がのけぞった。少しでも熱を逃がそうと身をよじるけれど、しっかりと腰を掴まれてぐりぐりと見っちゃうさせられる。恥ずかしい。恥ずかしいのに、気持ちがいい。

「っんぁあ…!」

「さて、可愛い嫁を休ませてやりたいところだがそうも言ってられなくてな。何、すぐ済むさ」

「や…、ま、って…」

「待たない。そら、手をどけな。可愛いその口に口吸いさせてくれ」

既に力が抜けて添えるだけになっていた手をそっと外される。止めてほしいと訴えても、彼は笑って宥めるように口づけを落として黙らせるのだ。そうしてぐちぐちと耳を塞ぎたくなるような水音がするそこへ、指が一本入れられた。何度となく国永様を受け入れているせいかその指がもたらす快楽も、形もすっかり覚えてている。浅いところを擦られてまた気が遠くなった。自分の体なのに自分以上に彼に知られてしまっていることが怖い。最初は浅いところをひっかくように触れられ、問題ないと分かるとグチュんと音を立てて奥まで押し込まれた。掻き出すようなその仕草に足が震える。

「ひっ、ぁっ…!や、あぁ…っ!」

「ん…柔いなあ。準備万端といったところか。これならすぐに済むだろう。ほら、俺に腕を回せ」

その言葉に首を横に振る。触れたらきっと泣いてしまう。肌を暴かれてから、私は一度だって彼に触れたことはない。これは分霊を下ろすための行為で、国永様に愛されているわけではない。つまり彼との間に愛や好意というものは存在していないのだ。それでも私は彼が好きだった。桜吹雪の中で一等輝く白色を、初めてその姿を目に映した時から。一向に羽織から手を離さない私に呆れてか、国永様はため息を吐くとくるりと私をひっくり返す。剥きあるような姿勢からうつぶせに変わり、ただ冷たい布団だけが目に映る。そうして腰だけ高く上げさせられた。獣の性交を連想させるようなその体位は只々羞恥を煽るだけだ。衣擦れの音がして、ぴたりと秘部に彼の魔羅が宛がわれる。

「や…っやです…こんな…!」

「悪いがその言葉は聞き飽きた。きみが俺を見たくないというなら、こうするしかない」

「…〜っ!!!!」

後ろからぐっと熱い怒張を突き入れられる。ぽろっと目じりから涙がこぼれた。この瞬間は何度経験しても体が強張るし、呼吸が止まってしまう。今回も声が漏れないよう、必死に唇を噛んで耐えていたのだけれど、何を思ったか彼の綺麗な指が伸びてきて無理やり口を割り開かれ入れられる。その手にいつも履いている手袋はない。ぬるりと、態と唾液を絡ませるように指が動く。同時にもっと奥まで銜え込ますよう強くゆすぶられ、少し引いては最奥を穿つ。波のような緩やかなものではなく、それはまるで濁流にのまれるようで、ひっきりなしに身体が痙攣した。びくびくと、全身が収縮と弛緩を繰り返す。けれど、彼を迎え入れている膣だけは痛いくらいにきゅうきゅうと、収縮するばかり。濡れた粘膜が擦れる音、肌と肌がぶつかり合う音。国永様が体重をかけて伸し掛かかり、中に入っているものがさらに膨張した。開いている手は布団の隙間に潜り込み、好き勝手に胸を揉みしだいている。様々なものに押しつぶされそうだ。ぎゅっと胸の先端を摘ままれた。

「ひっ、ぁあああ〜…っ!や、だぁ…っ!」

「はっ…可哀そうに、なあ。こんなところへ連れてこられた上、神に抱かれるとは」

「…っん、あっ!」

「だが離してはやれない。俺の番だからな…逃げ場などどこにもない」

「…っん、んぁあ、…!」

「   」

「ぁ…!」

吐き出すような吐息とともに切なさを含んだような声で、名を呼ばれた。誰も知らない、私の真名を国永様は知っている。神に握られたそれは私を永遠にここへ縛り付けるものだ。名を呼ばれ体が動かなくなった瞬間、どろりと、熱いものが胎へ注がれる。覆いかぶさった彼の鼓動を背中に感じた。神様なのに、元々は刀なのに、人と同じように熱い血潮を循環させる臓器を彼は持っている。どくどくと同じように早くなるその音を聞いて、彼ももしかしたらと考えて、浮かんだ考えを払拭した。これは戯れだ。分霊のために人の真似事をしているだけ。でもそうなったら、私はどこにこの想いを持っていけばいいのだろう。合わせた肌はどこもかしこも火傷をしそうなくらい熱い。ぱたぱたと雫が落ちて来て、神様も汗をかくのかとぼんやりと思った。肩で呼吸をしながら熱が引いていくのを待っている私に対し、彼はゆっくりと体を起こすと吐き出したものをなじませるようにゆっくりと腰を動かす。ぐちゃり、と粘着質な音が響いて、肌が泡立った。そうしてまた、私をあざ笑うかのように鈴の音が落ちる。

「…またお喚びだぜ?まだまだ寝かせてやれそうにないなあ」

振り返ると冷たい満月が見下ろしていた。あの時と同じうつくしいけれどどこか冷たい笑み。それを隠すように彼の手が落ちてきて、今度は視界を塞がれる。

「…ヒトは五感の一部を封じられると感度が良くなるらしい。君が望むなら、その目を封じてやろう」

目の上に置かれた手に、ぐっと力がこもる。我儘だと言われようと彼の怒りを買おうとそれだけは嫌だ。別に私は国永様が見たくないわけじゃない。欲にまみれた自分の、ぐちゃぐちゃな顔を見られたくないだけなのだ。きっと見られたら今よりももっと呆れられてしまう。呆れられ面倒だと途中で捨てられるかもしれない。子供のように嫌々と首を振ると国永様の乾いた笑いだけが響いたが、それをかき消すように再び腰を揺らし始めた。私の想いが彼に伝わることはない。愛のない行為に溺れてしまうことが、何よりも悲しかった。国永様の、欲を孕んだ瞳が近づく。

「なあ、きみ。番の俺にもう一度口吸いをさせてくれ」