五条先生の束の間の恋人になることに対して、いくつか取り決めをした。私から言い出したものもあるし、面倒くさいことになるのを嫌った彼からも提案されたことも勿論ある。

一つ、病院内では変わらず医師と検査技師という立場を守ること。

これは私の平穏無事な生活を確保するにあたって相当重要な項目になってくる。だって今をときめく五条先生に恋人ができたとなれば、天変地異の如く病院中が震撼して、目を皿にしながら相手探しが始まること必須だ。下手すれば職場を変えざるを得ないので、ここはきっちり守ってもらうよう念を押している。

一つ、五条先生の友好関係に口を出さない(セフレ関係含む)こと。

「先生、約束覚えてます?」

「きみとした約束を忘れるはずがないだろう?」

「もうずっと先延ばしにされてたから…私我慢できなくてっ…」

「ははっ!誰かに見られたいのか?淫乱だな」

「ふふ…恋人さんが出来たのに変わらず相手してくれる先生だって、人のこと言えませんからね」

軽蔑するみたいに笑った看護師が、五条先生の左手薬指に嵌められた指輪に口づけを落とす。彼は同じように嘲笑していた。どう見たって医者と看護師の距離じゃない2人が、コソコソ内緒話をするみたいに顔を寄せ合って仮眠室に向かうのを、廊下の角に隠れて見送り溜息を一つ。私の名誉のために言っておくが、フロアに用があっただけで決してストーカーしてたわけではない。変わらずお盛んなようで何よりです。私の貞操を守る為に彼女は犠牲になったのだ。