離反から2年後、夏油くんが宗教団体を設立した。設立というか、完全に乗っ取ったという方が正しい。それも、彼の心を抉るきっかけとなった事件の首謀団体、あの盤星教というから驚きだ。何という趣向返し。
資金も潤沢で隠れ蓑にもなる。その分非術師との接触が増えたけど、大義を成すための我慢なら、と有難い説法を説いて回っているらしい。
その頃から私と彼の関係も少し変わった。
口直しのキスはいつの間にかただの建前になり、肌を合わせる合図となった。
彼も育ち盛りの青年。溜まるものは溜まる。かと言って、非術師との接触は死んでも嫌だと言っていた。そんな中、私は一番手頃な存在だったのだろう。
最初は驚いたものの、呪術師という職業柄このまま喪女になる可能性も高かったので、夏油くんならばと受け入れた。面倒臭かっただろうに懇切丁寧に扱ってくれて、モテる所以もここにあるのだなと、怠さが残る中考えた。そこからはもう、なし崩し的である。
ぼんやりと最初に抱かれたことを思い出していたら、中に埋められたモノが弱いところを擦り上げた。急な刺激に、背筋が慄く。手首を掴んでいた手が離れて、そのまま大きくもない胸に触れた。首筋を吸われ、低い呼吸が耳朶を打つ。それだけで、体が震える。自分のものじゃないみたいだ。口から溢れそうになる嬌声を、必死に抑える。そうすれば、夏油くんは硬くなった先端で更に深いところを抉ってきた。
ぎゅうっと至る所に力が入る。彼が一回肩で息をして動きを止めたかと思ったら、また奥へと腰を進めてきた。
「…〜っ!」
「っ、声、我慢しなくていいよ。聞かせて」
「あっ、ぁ…っ!や、」
「何を考えている?」
「ぁ、…っ、夏油くんの、ことっ」
「ふふ、本当かな?私が目の前にいるのだから、余所見しないで。ちゃんと付いておいで」
「…〜っ、!」
何度も揺さぶられて突き上げられて、何度も上に登った。戻って来られないのではと考えて怖くなる。シーツを握りしめる手ですら、夏油くんの手に覆われて何処にも逃げ場がない。意味のない言葉を発して震える私を笑って、彼はまた快楽に突き落とすのだ。
ぽたぽたと上から水が落ちてくる。汗なのか涙なのか、熱で視界がぼやけた。
意識が飛びそうだ。
「なまえ」
甘さと優しさを孕んだ声に抱き締められながら、シーツに沈んだ。重なる温度と整っていく呼吸が心地いい。このまま眠りたい。そんな思いを嘲笑うみたいに、封を切る音がした。
「ぁ…っだめ、っ!」
「此処はそうでもないみたいだけど」
ぬかるみに、また熱いものが沈んでいく。面紗が張り付いて気持ち悪い。夏油くんが息を吐いて、笑う。さっきとは違う角度で押し上げられて、とんとんと優しく突かれる。それだけで、足先が丸まった。
「これ、取ってしまおうか」
面紗を軽く引っ張られる。重い腕を上げてやんわりと否定すると、頑固だね、とやっぱり笑われた。背中に回った手に起こされて、あぐらをかく夏油くんの上に乗せられる。自重で更に奥へと押し込まれて、息が詰まった。
「残念。術式発動できないように前後不覚にさせることくらい、訳無いのに」
「これ、や…っ!」
「そんな顔には見えないな」
少しでも楽になろうと、彼の肩に手を置いて震える膝に力を入れる。上に逃げることを選んだのは自分なのに、ぬるりと中が擦れて抜けていく感覚が堪らなく恥ずかしくてでも気持ちよくて、小さく声が漏れた。前にも後ろにも、上にも下にも逃げられなくて、どうしていいか分からない。心臓辺りにキスをしていた夏油くんが、喉で笑う。
「ふふっ…腰動いてる。気持ちいい?」
「っ…ぁ、夏油、く…、」
「何?」
「助け、て…っ」
生殺しのような状態に半ば泣きながら助けを求めた。
目を細めた彼が、舌なめずりする。瞳孔が開いてて、まるで獲物を前にした蛇みたいだ。きゅっとナカが締まる。太ももから上がってきた両手が、柔く腰を掴んだ。
「ちゃんと掴まっているんだよ」
揺れる視界が、夏油くんでいっぱいになる。落ちてくる彼の髪の毛はまるで帳みたいで、世界から切り離すように私をそこに閉じ込めた。
いつもより少ししつこく抱いた日、珍しく朝まで一緒のベッドにいた。いつもなら双子ちゃんのこともあってそそくさと帰るのに、不思議なこともあるものだ。更には朝ごはんまで用意してくれたのだから、驚きを隠せない。無理をさせたからと笑っていたけど、彼が何を思っていつもと違う行動話を取ったのか本当のところは分からない。
「辛かったら今日はゆっくり休むんだよ」
「それ、夏油くんが言うの?」
「それもそうか」
「今日は午後からだから、それまで寝てるつもり。後で作ってくれたご飯食べるね」
「あまり無理はしないように。身体に気をつけてね」
支度を整えた夏油くんは、私に見送られながら玄関から出て行った。
そんな不思議な出来事から、夏油くんはぱったりと姿を見せなくなった。活動が忙しいのかもしれないし、縁が切れたのかもしれない。特に最近は呪術連も目を光らせていることもあって、気軽に出歩けないのだろう。監視を恐れてか、彼からのメールも途絶えた。
私が高専にいる以上こうなる可能性は常にあったので、特段悲しくはなかった。少し寂しかっただけ。
深夜に叩かれない窓を何度も見る。食材を少し多めに買ってしまう。平気なはずなのにそんなことが続いてしまって、自分の行動に苦笑いをすることが多くなった。それくらい、あの3人は私に取って大きな存在だったのだ。
双子ちゃんも夏油くんもいないなら家に早く帰る必要もない。気持ちを紛らわすように、いつになく仕事にのめり込むようになった。
「なまえ?!」
「捕まえた…!」
体力回復も兼ねて、買い物をして回っていた時だ。足元に衝撃を受け、よろめく。懐かしい声に瞬きをすると、少し大きくなった双子が足にしがみ付いていた。その背中には少し大きなランドセルを背負っている。そうか、もう小学生になったんだ。
「奈々子ちゃん、美々子ちゃん、久しぶりだね」
「美々子、絶対離しちゃだめだよ!!」
「分かってる。奈々子もだよ」
ぎゅうぎゅうと、それなりに強い力で掴まれて、身動きが取れない。懐かしがる私の言葉は無視された。悲しい。
「あのね、2人とも。この体勢だと危ないから、ちょっと離してくれると嬉しいな」
「だめ!!」
「またどこかで行っちゃうのやだ。離さない」
「行かない、どこにも行かないから。あ、じゃあ一緒にパフェ食べよう!ね?そこで話そうよ」
この子達が、甘いものに目がないのは知っている。近くの喫茶店を指差せば、2人は互いの顔を合わせて頷く。ほんとに?絶対だよ!と、何度も念を押され、半ば引きずられるように、お店に入った。そして、対面の4人席のはずなのに両脇を固められる。
狭いと思ったけど、2人とも必死なので何も言えない。その上、席に着くなり怒涛の質問攻めにされた。
「何でいなくなったの?」
「げとうさまのこと、きらいになった?」
「それとも私たちのこと嫌い?」
「いい子にするから、なまえ帰ってきて」
「猿のためにまだお仕事してるの?」
「猿なんて放っておいて私たちといたほうが絶対いい」
「え、ちょっと待って何の話?」
「なまえの家なくなってたもん」
「げとうさまも、連絡もつかないって言ってた」
あ、と思い当たる。夏油くんが現れなくなった頃、立て続けに体調を崩したことがあった。任務で喰べた呪霊との相性が悪く、2ヶ月ほど動けなかったのだ。その際、恥ずかしながら賃貸の契約も切れてしまって、復帰と同時に新居を構えたのだが。その後も海外に行かされたりして、日本にいない時期もあった。
携帯も任務中に壊れてしまったので買い直したから、余計に心配させてしまったのだろう。といっても、会えていなかったのは一年くらいなんだけども。
「そうだったんだ。ごめんね、海外行ったり体壊して入院もしてて…」
「猿ほんと、何様…」
「吊るす…?」
「さ、猿…?」
「なまえ、私たちのこときらいになってない?」
「ないよ。みんな大好きだよ」
「奈々子も美々子も、夏油さまも?」
「うん。夏油くんはどう思っているのか分からないけど、私にとって三人とも大事な人だよ」
不穏な言葉は聞かなかったことにした。
よしよしと小さい頭を撫でる。目を潤ませて、ぎゅうぎゅうと抱き着かれた。丁度パフェが運ばれてきて、2人の意識がそちらへ向く。泣かれるとどうにもできなかったので良かった。ただ私の言葉は半分も信用されてないのか、スプーンを持たない方の手でずっと服を握られている。
「でも夏油くんなら知ってると思ってたんだけどなあ」
「げとうさまも探してたよ」
「高専にしてやられたかって言ってた」
「あー…成程」
別れを悟られないように双子に気を遣ったことも考えたけど、もう一つの可能性が浮かんで内心溜息が出た。
引っ越し云々は硝子ちゃんにお願いしておいたのだが、彼女がそんな面倒くさいことを快く引き受けるはずがなかった。たぶん、五条くん辺りに投げた。そして彼も彼で、離反した親友への嫌がらせにはもってこいの案件だったと。通りで部屋が無駄に豪華だったわけだ。序に言うと、海外任務は五条くんかたパスされたものだ。
「うん、私が悪いな。2人ともごめんね」
「私たち、すっごく悲しかったんだからね!」
「うん、ごめんね」
「なまえのカレー食べたい。それで許してあげる」
「カレーかぁ。分かった、じゃあ今度食べにおいで」
「やだ!今日がいい!!」
「え、今日?!」
「なまえと会ったから夕飯入りませんって連絡した」
これでいいよね、何で笑顔で言われたら断れない。外堀の埋め方が夏油くんに似てきた気がする。褒められた手癖ではないけど、2人も小さいながらに彼の背中を見て学んでるんだなと嬉しくなった。
「じゃあ帰りに材料買うから、手伝ってくれる?」
「もちろん!」
「ご飯の支度も手伝う!」
お野菜切れるようになったんだよ、と興奮気味に教えてくれて、凄いねえと褒める。二人とも頬を染めて恥ずかしそうにした。