「やあ、悟」

呪霊を祓った先、ひょっこり現れたのは高専始まって以来の最悪の呪詛師であり、五条にとっては唯一無二の親友だった。
離反直前に見られた暗さや遣る瀬無さは霧散しており、むしろ生き生きしているように見えるのは気のせいではないだろう。お互いの手の内は知り尽くしている。だからこそ、今の夏油に戦う意思がないこともまた理解していた。

「今更僕の前に出てきて無事でいられるとでも思ってる?」
「いいや。悟の活躍は聞いているよ。相変わらずみたいだね」
「今の僕なら、傑でも一瞬かもよ?」
「だとしても、きみはそうしないだろ?あの時だって、殺せなかったんだから」

あの時、とは離反後一度だけ街中で顔を合わせたことを言っているのだろう。殺したいなら殺せばいい、という親友に対し、術式を発動させることはできなかったこともまた事実。
態とらしくため息を吐いて、見慣れぬ袈裟姿を視界に収める。にこやかに手を振る姿は、高専でともに戦った日々を思い起こさせた。何処で道を違えてしまったのか、当時はそんなことばかり考えていたが今となってはどうでもいい事である。

「親友のことは何でもお見通しってやつ?あーやだやだ。僕、これからまた別件で忙しいのよね。その、懐に入っている“ブツ”も回収しなきだし〜」
「取引をしようと思ってね」
「取引?」
「親友のことは何でもお見通しの悟なら、大体の見当はついているんだろう?」

夏油は懐から、二本の指を取り出した。何重にも呪符が巻かれて尚、漏れ出す呪いを断ち切れずにいる。呪いの王、“両面宿儺”。歴史上最も恐ろしい呪詛師と言われた男の、指であった。

「…条件は?」
「瀬波なまえの身柄。それから今後一切、高専と関わらせないこと」
「女の為かよ…傑、お前性格変わった?」
「私に辿らせないようにしておいて、どの口が言う」
「惚れちゃったなら素直に言えよ。親友の恋路だ、全力で応援してやる」
「全力で邪魔する、の間違いじゃないか」



「おじいちゃんたちが赦さないからなあ」
「しがない準一級術師と両面宿儺の指2本。引き渡しても損はないだろう。高専にとっては十分お釣りが来る」
「そうも言ってらんないのよね。なんせなまえてば年上キラーだし?それに彼女がそっちに行くことをえらく警戒してる人間もいる」
「上層部の連中が欲しいのは、彼女が集める呪塊ということか」
「そこだけは同意見。腐ったみかんのバーゲンセールもいいとこさ。ほんと、嫌になっちゃうよね〜」

「ありゃ天然のドーピングだ。解呪と解毒が施された安全に使える純粋な呪力の塊。言うなれば、なまえは金の卵を産む鶏。まあ、今のところその呪塊の有効な使い方は見つかってないらしいけど。見つかったら上がどう出るか、見ものだね」
「呪術界のパワーバランスがひっくり返る。今までのうのうと伝統と権力の椅子に座っていた奴らも背後を気にする生活になりそうだ。悟にとっては良い機会かもしれないね」

「そ、だからお偉いさん方はその呪塊の源が高専の反対勢力に渡るのを恐れてるってわけ」
 
「その辺りはほら、悟を信頼しているから」
「都合のいい事ばっかいってんじゃねーよ」




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