旧■■村。窓からの連絡でその事前調査と現状把握を依頼されたのは、つい先日のことだ。村に着いた瞬間、なんとも言えないおどろおどろしい空気が肌をなぞっていく。呪霊は確かにいる。それと同時に、こうした集落特有の、排他的とも言える空気がとにかく気持ち悪かった。

見張りとも言える案内人に連れられ、大きくもない集落を回る。恐らく土地神に似た、この場所特有の負の念が何十年も積み重なってできたモノだと言うところまでは分かった。等級も恐らく一級以上。これは特級術師に任せた方がいいだろうというのが、私の判断だった。ただ、一級以上の割に動きが大人しいことが疑問として残る。何かを警戒しているような、暴れ出す機会を伺っているような、そんな違和感がある。

「■■■■…?(あの場所も見せろと?)」
「お願いします。これも祓除のためですから」

村の外れにある大きな蔵を指差せば、案内人は顔を歪めたあと渋々といった様子で歩き出した。聞けばあれは村長が私有するもので、村の祭りで使う大きな道具などが仕舞ってあるだけで、特段調べるようなものはないという。それだけならいいのだけれど、錠前がやたらと新しく頑丈な物を使用しているのが気になった。

「…どういう事ですか?」

思わず口調が強くなる。倉庫だと聞いた筈だが、それとは全く別の用途で使用されていた。4畳ほどの座敷牢の中には、まだ小学生にも満たない女の子が2人。どちらも顔や体に痛々しい痣があった。私を見るなり、小さな悲鳴をあげて今にも折れそうな身体を寄せ合う。日常的に村人から虐待を受けていることは明白だった。

「■■■!!■■■■!■■■■?!(こいつらは村に災いをもたらす!!こいつらが持つ妙な力で何人もの村人が不幸になった!今回のことだってこいつらが原因に間違いないんだろ?!)」
「…いいえ、この子達は全くの無関係です」
「■■■?(そんな嘘を信じるとでも?)」
「ならば彼女達を私に引き取らせてください。ここにいてはお互い不幸にしかならないでしょうから」
「■■■■?(その子供にこの村を滅ぼす方法でも教える気か?)」
「いいえ。あなた方もずっと恐れて暮らすより、元凶だと思っているものを手放した方が安心して暮らせるのでは?」
「……」
「村長に話を通してください。彼女達は私達、高専が引き取ります」

村を救いたいんですよね、と強く言えば、顔を歪めたまま乱暴に倉から出て行く。そうして数分もすれば村長らしき人を連れて戻ってきた。再度同じ説明を彼らにし、何とか少女達を身柄を保護する算段をつける。それでもやはり、村人達の信頼を完全に得ることはできなかったようだ。怪奇が終わるまでは私を含めて村から出ることは許さないという。

「でしたらこの子達は私の車に移動させてださい。私もそこから動きませんし、しんぱいな見張ってくださっても大丈夫です」
「■■■?■■!!(逃げたらどうなるか分かっているか?精々殺されないようにするんだな!」
「ご心配には及びません。では、私は担当者に連絡を入れますので」

村人が睨みつける中、少女達に手を差し出す。不安と恐怖を抱えた2人は、震えながら後ずさった。

「こんにちは。私はなまえといいます。貴女達と一緒にここを出たいなと思っているの」
「…っ、」
「大丈夫、誓って何にも怖いことはしないわ。私も貴女達と同じだから」

なるべく脅かさないように、ゆっくりとした口調で話しかけた。指先で呪力を動かし、2人に分かってもらえるように地面に落ちていた石を砕く。腫れた目をぱちぱちと動かした少女達に、ね?と笑いかけた。

「おいで。ここから逃げよう」

もう一度差し出した手に、小さい紅葉が2つ乗せられた。

***

警戒しつつも車まだ着いてきてくれた2人から、なんとか名前だけは聞き出せた。ななこちゃんとみみこちゃん。漢字はわからない。私がポケットから出したチョコレートを美味しそうに頬張る姿は、年相応の子供だった。まずは餌付け作戦成功といったところだろう。

「ごめんね、私交渉が下手で。本当はあったかい布団と美味しいご飯があるところに連れて行きたかったんだけど」

車の後部座席のシートを倒し、とりあえず2人の就寝スペースを確保する。補助監督は車内泊をすることもあるため、数日分の着替えと汗拭きシート、飲料水を用意していたことが幸いした。使い終わったペットボトルに井戸の水を汲み、タオルを湿らす。
とりあえず、傷だらけの2人の体を洗うところから始めた。

「痛かったらごめんね。まずは綺麗にしよっか」
「…おねえさんは、だれ?」
「私?うーん…みみこちゃんやななこちゃんと同じ、普通の人とはちょっと違う力を持った人かな。そういう人が集まる学校があってね、そこに勤めてるの」
「痛いことない?」
「あんまりないよ。任務で怪我をするのは痛いけど、高専に居るひとはみんな良い人だよ」
「私たちもそこに行くの?」
「うん。高専の偉い人が、2人が安心して暮らせるお家を探してくれるから、それまでは一緒に過ごそうね」

そう言うと、不安そうな顔をしつつも2人とも素直に頷いた。小さな頭を撫でて、優しく抱きしめる。少しでも2人から怖いことが無くなるよう、願わずにはいられない。

粗方綺麗になったところで、2人に軽食を与える。小さい口で食べる姿は可愛らしい。暫くすると2人仲良く船を漕ぎ始めた。ブランケットをかけ、後回しになっていた報告をする為に携帯に手を伸ばす。

簡単な状況説明と保護の旨、それから村を襲う怪奇の階級を書き込む。見た事と予想されうる事を報告すれば、夏油くんが任務を梯子する形でそのままこの村に向かうらしい。担当が彼と言うことを聞き、少し安心する。五条くんだったら、絶対双子と喧嘩してた。

別途携帯で夏油くんにも連絡を入れてると、分かった。なるべく早く向かうよ、と簡素な返信がある。

「あの、」
「ん?起こしちゃった?」




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