「なまえ!」

エプロンの裾を引っ張られる。視線を落とせば奈々子ちゃんと美々子ちゃんが、物欲しそうな目で見上げていた。

「もも、たべたい!」
「もうすぐご飯だから、夜のデザートじゃ駄目かな?」
「……たべたい」

どうしたものかと悩む。普段あまり自己主張しない美々子ちゃんまで食べたがるのだ。あの日初めて食べた缶詰の桃に、此処まで虜になるとは思わなかった。
2人で一つじゃ足りないだろうし、かと言ってお預けにするのも良心が痛い。うるうるとした瞳と、期待に満ちた瞳を向けられて、甘やかすという選択肢が勝った。

私から難なく桃をゲットした彼女たちは、我先にとリビングで待機している。毎日せがまれて桃缶を開けるせいで、残り一つとなってしまった。次買う時少し多めに買おう。

「ご飯前だからちょっとだよ。残りはご飯のあとね」
「えー!」
「今日のごはん、なに?」
「今日はカレーだよ。うんと美味しいの作るから食べてくれると嬉しいな」

かれー、と口々に呟き、どういうものか尋ねられる。カレーも初めて食べるらしい。ならば尚更色合い的にはあまり良い印象は受けないだろうと、カレールーの紙パックに載っていた絵を見せる。奈々子ちゃんは当然、眉毛を八の字にした。

「どろじゃん!」
「色は悪いんだけど、美味しいんだよ」
「なまえもたべる?」
「私もよく食べるよ」
「なら、がまんする」

あぁこれは絶対泥だと思ってる。仕方がないので、桃を食べさせた後に作り方を見せることにした。最初は嫌そうにしていた2人だったけど、段々漂う食欲を誘う香りにそわそわし始める。少しだけ味見をさせれば目を輝かせたので、これで夕飯のメニューはクリアできそうだ。

「なまえこっちは?」
「そっちは夏油くんの分だよ。大人だから、少し辛めに作ってるの」
「げとうさま、かえってくるよね?」
「そうだね。今日はちょっと遠出するみたいだけど、早く帰って来れるように頑張るって言ってたよ」

だからご飯食べちゃおうね、と言えば、2人とも素直に頷いてくれた。

高専から離反して早ニ週間。夏油くんはどこかに拠点を構えたらしい。最初こそ私の家に出入りしていたものの、すぐに出ていくという言葉通り、1週間もすれば部屋から忽然と姿を消した。居場所を教えてくれないのは、私のためでも双子のためでもあるのだろう。
ただ、どこか遠くへ行く用事ができると、ひょっこりと現れては私に双子を預ける。毎回、狙ったように私の休みにぶつけて来るあたり、高専関係者に内通者がいるのかもしれない。

栄養が偏らないように、サラダとリンゴジュース、それからカレーを並べる。食べて良いよ、と言えば、2人とも顔を見合わせた後、どうして私の分がないのか聞いてきた。一緒に食べられない理由を何度も伝えているのだけど、小さい二人には難しいらしい。
恒例となった押し問答に、また同じ説明を繰り返すしかない。

「なまえーいっしょにたべようよー!!」
「いや?」
「ううん。でもごめんね、私の術式の関係で一緒には食べられないんだ」
「げとうさまが、ごはんはかぞくでたべるものだっていってたよ」
「ありがとう。気持ちだけもらっとくね」

冷めないうちに食べて、と促すと、渋々ながらスプーンを持った。味はお気に召したらしい。先程の騒がしさが嘘みたいに、黙々と食べ始めた。

「今日はカレーかな。良い匂いだね」
「げとうさま!」
「おかえりなさい!」

夏油くんは、二人が食べ終わる頃に戻ってきた。ラフな格好に、いつも通りの髪型。先に荷物は置いてきたのか、手ぶらだった。

「げとうさまもたべよう!」
「なまえが作ったごはん、おいしい」

両手を引っ張られて食卓につく。すっかり二人のお父さんになってて、笑ってしまった。




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