「なまえさんって、あのクズと付き合ってるの?」
図書室で会った硝子ちゃんから出た言葉。この流れでクズと聞いて思い当たるのは、1人だ。
「え、何、急に…」
「だってあいつ、最近なまえさんの部屋から出て来るから。もし無理矢理何かされてるならどうしてやろうかと思って」
「あー…成程」
私の術式の関係で、左右一部屋ずつ空き部屋にしていると言えど、不定期に呼ばれる硝子ちゃんと夏油くんが、入り口とかでばったり会ってしまう可能性は考えてはいた。ただ、部屋から出て来るところを見られていたとは。
「付き合ってはない、かな」
「よし、次治療するとき痛みだけ残してやろう」
「断じて硝子ちゃんが思ってるような関係じゃ無いから、そこはちゃんと治療してあげて欲しいな」
「ふーん。なまえさんも満更でもないってことか」
「そう言うわけじゃ無いんだけど。私の術式覚えてる?」
ここは先輩である私の名誉と、一級呪術師である夏油くんの名誉を回復しなければ。
「喰べて解呪するんだっけ?」
「そうそう。それで、夏油くんがあの事件以来、少し変わったでしょう?負の念が凄かったから、少しそれをね、」
「喰べてんの?は?あいつ何様」
益々機嫌が悪くなってしまった。硝子ちゃんの中にある夏油くんの評価をさらに下げることになってしまい、大変申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「でも私のエゴもあったと言うか何というか。あと私の術式と夏油くんの術式、ちょっと似てたから放っておかなくて…親心みたいな感じかな?」
「ふーん」
興味なさそうな相槌をもらった。聞いてきたのは硝子ちゃんの方なのに。だから断じて不健全な関係じゃ無いから安心してね、と伝える。やや置いてから、そういう事にしといてあげる、と少し上からの返答をもらった。
後輩に舐められすぎている件について、如何にかしたいと思ったのは内緒。
「私は親子より不健全な関係の方がいいけどね」
「へえ、やっぱりそういう考えなんだ。相変わらずゲスいな。つーか呼んで無いし、帰って来んない?」
ぬっと本棚越しに現れたのは、今話題になっていた夏油くんだ。硝子ちゃんは嫌そうな顔をして、虫を払うみたいに手で退出を促している。相変わらず自分の同期には容赦がない。
それよりも、不健全な関係でもいいって何だ。私は嫌だよ。夏油くんの彼女が出てきたりして痴情のもつれに発展しても困る。
「なまえさん、先生が探していましたよ」
「あ、本当?何だろ、明日の任務についてかな」
明日は確か、指名された任務が入っていた。詳しい説明は後日と言われていたから、その事かもしれない。楽しい女子会も、先生に呼ばれているなら一旦解散せざるを得ない。また寮でね、と手を振れば、いってらっしゃいと返してくれた。
「じゃあ私も途中までついて行こうかな」
「お前は居残り。詳しく話してもらうかんな」
「顔が怖いね、硝子。特に話せることは何もないんだ」
「安心しろ。口を割らせるのは得意だ」
「ふふ。硝子ちゃんも夏油くんも、またね」
「残念だったなぁ、夏油くん?」
逃がさないとばかりに暗い笑顔が飛ぶ。あからさまに溜息を吐いた夏油くんと、機嫌の悪そうな硝子ちゃんを置いて、図書室を後にした。
「どうしたの、これ」
「硝子がなまえさん部屋に行くなら差し入れの一つでも持って行けと言われてね。桃が好きと知っていたら毎回持ってきたのに」
「そういえば言ってなかったかも。有難う」
部屋を訪れた夏油くんの手には、私の大好きな桃の缶詰が入ったレジ袋がぶら下がっていた。それを受け取って、早速冷蔵庫へ入れる。
桃の缶詰以外にも、部屋には色んなフルーツの缶詰が置いてあった。何でかと聞かれれば、これが私のご飯だからとしか答えようが無い。
「フルーツばかりだね」
「うん。ほら、私ってお腹があんまり空かなくて。でも何か食べないと体に悪いでしょ?フルーツなら、不思議とお腹減ってなくても食べれるんだ」
夏油くんは積み上がってるフルーツ缶を手に取って、裏面の説明を読んでいる。数ある中でも一番の高級品を手に取るとは、お目が高い。お給料をもらった時とか大きな仕事を片付けた時は、ちょっと高級なフルーツ缶を開けると決めていた。
「夏油くんも食べる?美味しいよ」
「いや、私はいい」
「そう?無理にとは言わないけど、最近のきみは私のこと言えないくらい食べてないからね」
「私にはなまえさんがいるので」
「んんん?私じゃ栄養は摂れないよ」
先輩として心配だよ、と言えば、無言で腕を引かれた。ぽすっと腕の中に収まる。どうしたんだろう。今日のお互いの予定に討伐任務は入っていなかったから、口直しがしたいというわけではないだろう。
下ろしてる髪のせいで彼の表情は見えなかった。
「夏油くん?」
「…」
「疲れちゃった?」
「なまえさんは…」
「うん?」