仰々しい木の門が、石段の上から覗いている。此処はいつ来てもあまり変わらない。それは天元様のお陰なのか、単に変えるまでもないのか。その両方だろう。
「本当に此処まででいいのですか?」
「大丈夫です。お土産もそこまで多くないですし、スーツでこの石段の登り下りは大変でしょう?」
「ですが…」
ここまで運転してくれた従者は、滴る汗をハンカチで拭きながら低姿勢を続ける。私に対しそこまでかしこまる必要は無いのだが、彼の立場上私の意見を取り入れることはできないのだろう。
「大丈夫ですよ。何かあれば夫に送らせるので」
本当は微塵も送ってもらうつもりなどない。それでも従者にとっては安心できる言葉だったのか、ホッとしたような顔で車に戻っていった。小さくため息をついて、石段を見つめる。
「さて、行きますか」
***
「あれ?」
「どうした、虎杖」
「いや、見慣れない女の人がいるなって」
虎杖が指を刺した方へと視線を向ける。そこには着物姿の女性が確かにいた。背中には竹刀袋、両手に提げられた4つの紙袋。少しおぼつかない足取りで、石段を登っている。花や霞の地紋が入った黒色の着物は、見慣れなさも相まってどこか浮いて見えた。
此処を訪れる着物の女性、そこまで考えて伏黒の頭にある人物が浮かぶ。
「行くぞ、虎杖」
「へ?伏黒知り合い?」
「あぁ。織さん!」
伏黒の呼びかけに女性が振り向く。男子2人の姿を見て、柔らかく微笑んだ。
「恵くん、久しぶり。大きくなったね」
「お久しぶりです。荷物待ちますよ」
「本当?有難う。凄く助かる」
「俺も待つよ、伏黒!半分ちょーだい!」
「あら、新しい子?初めまして、織と申します」
「初めまして。虎杖悠仁です」
「よろしくね、虎杖くん。あ、と言うことは君が噂の器?」
「ええ、まあそっすね」
そっか、と微笑む織から二つずつ紙袋を受け取る。それ以上宿儺のことを詮索するわけでもなく、また石段を上り始めた彼女。伏黒とは知り合いのようだが、実際はどこの誰なのかは分からない。
「今日五条先生はいませんよ。良いんですか?」
「だから来たの。予定では明日だったんだけど彼からのちょっと連絡がうざ…たくさん来て困っちゃって」
「織さん、五条先生の知り合い?」
「知り合いというか…」
ちらりと、伏黒と彼女は目を合わせる。話ぶりから2人とも旧知の仲であることは何となく分かったが、次に出てきたのは己の想定外の言葉だった。
「……この人は五条先生の奥さん」
「奥さん?!」
「悟の妻の織です」
「え?!ちょっとまって、五条先生って結婚してたの?!」
初めて知ったんだけど!と叫ぶ虎杖を横目に、当然の反応とばかりに織は笑う。あの容姿から恋人の1人や2人入るだろうなと予想してはいたが、結婚していたとは思わなかった。彼の左手に指輪もなく、一番独身貴族を謳歌していそうな五条先生が結婚していたとは。それこそ天変地異でも起きそうなくらいには驚いた。
「え、じゃあ新婚さんとか?」
「いえ。彼とはもうかれこれ5年…?」
「いや、俺を見ないでくださいよ。何で当事者の織さんが曖昧なんですか」
「何年過ごしたとかあんまり数えてなくて。でも新婚ではないかな」
「そっか。いやでも先生が結婚か〜」
「想像つかない?」
「はい。全く」
即座に答えた直後、頭に伏黒の鉄拳が飛ぶ。少しは言葉を選べよ、とそういう事だろう。織は特に気分を害した様子もなく、笑ったままだ。
「いいんだよ、恵くん。本当のことだもの」
「建前は必要なんで」
「そっか」
口元を押さえてまた笑う。彼女のその左手にも、指輪らしきものはなかった。