おはよう
そう、私にはやらなくてはならないことがある。この時のために残しておいたのだろうと思った。大切な2人を無くさないために。
「失礼します」
ノックをしながら声をかける。返事を聞いてから中に入ると、目に入った光景に泣きそうになった。
「お二人共、お久しぶりです」
2人はそれぞれ返事を返してくれて法子姉さんの隣に私も腰を下ろす。法子姉さんの手を見て限界なんだと悟った。早く説明して、早く終わらせなければ。私は2人の会話を黙って聞きながらそんなことを考えていた。
「名前」
「はい」
「お前は後悔しているのか」
「いいえ、してません。感謝してます。貴方達の存在は、わたしにとって無くてはならない存在だった」
猿鬼さんに聞かれて答える。法子姉さんのことを忘れておいて何を言ってるんだとすら思った。でも絶対に私の人生を変えたのは2人である。今更それを覆せるわけがない。
「本当の兄、姉のように思ってます」
「名前さん...私も妹が出来たように思ってました」
「だから....、死なないで欲しい」
もう涙を隠せない。落ちてくる度に拭うけど、止まる気配はまるでない。隣で法子姉さんがワタワタしているけれど、猿鬼さんはじっと探るように私を見ていた。
「使うつもりなのか」
「許可してくれなくとも使います」
話についてこれない法子姉さんの手を取って歯を噛み締める。
「今まで制限してきたのはこの時のためだと思うんです」
「名前さん...?」
私の身体が弱い理由は、変な能力を持っているからだ。でも、これからどうなるかはわからない。もしかしたら限界が来るかもしれないし、まだ大丈夫かもしれない。
「法子姉さん、ごめんなさい」
「?」
「なんの能力も無い、ただの人間になってしまう」
能力までは残せない。それだけはわかっていた。
「"この全てを撤回する"」
法子姉さんに手をかざして唱えた。身体から光が出て、傷も塞がる。良かった。まだちゃんと使えたようだ。
次は猿鬼さんの番だと手をかざすと少し待てと言われる。5分外に出てろと言われて、法子姉さんの手を引いて外に出た。
「今のは...?」
「撤回と呼ばれる禁術ということ以外は、わからないんです。これを私が覚えて産まれたために我が一族は衰退しました。」
「禁術....使用して大丈夫なんですか?」
「大丈夫です。回数制限があるだけで、数十年に1回使うぐらいなら大丈夫ですから」
そこまで話して2人で扉を見つめる。中から嫌な気配がしているのだ。それは法子姉さんも感じているようで、ソワソワと時間を何度も確認している。
「名前さん、時間になりました」
5分ぴったり。中から嫌な気配がなくなったのとほぼ同時だった。
「猿鬼さんっ!!」
先に入った法子姉さんの悲鳴が聞こえて私も急いで後を追う。
心臓を抜いた姿はとても見ていられるものではない。法子姉さんは泣いているし、私はこれを撤回できる自信が全くと言っていいほどない。
「"この全てを撤回する"」
手をかざして唱える。猿鬼さんの身体から光が出てきた。心臓がバクバクして、私の心臓が止まりそうだなんて思う。どうにか間に合ったみたいだ。
「猿鬼さん、間に合わなかったらどうするんですか」
「お前なら出来るとわかっていた」
最高の褒め言葉である。あの猿鬼さんが、私を頼りにするなんて。
「お2人は、亡くなったことになります。どうか遠い地で生きてください。ほとぼりが覚めた頃に、会いに来てくださいね」
私の最後の仕事は2人を死んだことにすることだった。そうしないとどこから話が漏れるかわからない。今は誰だって信用は出来ないのだ。
「名前さん、ありがとう」
法子姉さんに優しく抱きしめられる。私は彼女から奪っただけなのに。私の身体が普通であったならば自分の力を解放することが出来た。そうすれば、法子姉さんの力も、猿鬼さんの腕だって治せたはずだった。
解放したら死んでしまうから、きっと猿鬼さんに止められてしまうと思って、やらなかった。
「名前、猿門を頼んだぞ」
「わかりました」
私は撤回を使う。
私以外は2人を死んだと思うように。
それが事実となるように。
全てが終わったら、思い出せるように。
ゆるくゆるく蓋を閉めた。
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