実力派

その組み合わせに誰もが驚いた。当初から南波刑務所1、2を争う強さだと言われていた双六一VS第5舎の嫌われ者苗字名前。5舎の面々はこの試合負けたとため息をつく。

「兄貴!なんであいつを行かせたんだよ!俺が一とやりたかったのに!!」
「黙って見ていろ」

騒ぐ猿門を黙らせると猿鬼は一と対峙する名前に視線をやった。
名前が来てからこの数ヶ月、毎日誰もいない夜遅くに稽古を付けてきた。普通に鍛錬に混ざればいいと言っても猿鬼さん以外には嫌われてるから、とスケッチブックに書いてきた名前はとても悲しそうだった。どうにかこれでまだマシになってくれればと、猿鬼は柄にもなくそう思ったのである。

声も少しずつ出るようになって(猿鬼としか話さない)少しずつ明るくなってきた名前を後押しするために、本当の力を見せつけるには新年大会が一番だと猿鬼はしぶる名前を納得させた。
せめて弱いと思われているのだけは払拭させたかったのである。

「ってことで餅つきダルマ落としを始めるぜ!レディィィィィっGO!!!」

一声三鶴の掛け声でお互い睨み合った。ペアの囚人は5舎で名前を無視しない世話好きの馬鹿力の脳筋野郎。後先考えずに向こう側に突っ込んで行ってしまう。

さっそくその様子に頭を抱えたが、逆に真っ直ぐこっちに突っ込んできた一に名前は意識をむける。この状態を見ている誰もが女子相手でも全力の姿勢を崩さない双六一を少しばかり引いた目で見ていた。

しかし、何が起きたのか。一瞬の土煙が上がったかと思うと一を投げ飛ばした名前がそこにいるだけだった。もちろん守らなくてはならない特大臼は無事である。

「は?」

思わずそんな声を出したのは投げ飛ばされた張本人の一だけでなかった。キジや猿門も思わず動きを停止する。犬士郎や三鶴は看守長の百式百子から話を聞いていたため、特に驚くことは無かった。

「なんだよアレ...」
「良く見ておけ。これからのあいつは俺よりも強いぞ」

思わず零した猿門に、猿鬼は名前を見たまま答える。猿鬼からそんな言葉が出てくると思ってなかった猿門はもう何も言えなくなってしまった。

「あいつはお前らにとった態度を反省している。見ていてやれ」

猿鬼の言葉に猿門は静かに頷く。
しかし、戦いはすぐに終わった。一が向かってきては投げ飛ばされて、投げ飛ばされては向かってきて。ワンパターン化したそれに変化をもたらしたのはやはり、名前側だった。

特大臼の上から降りて、地面で戦い始めたのである。名前が地面に降りてからは目を見張るほど一方的な戦いになった。
たったの5分。地面に降りてから5分で名前は決着をつけたのである。この日、猿門は初めて一が負けるところを見た。

5舎に戻ってきた名前は何事も無かったかのように定位置となりつつある猿鬼の隣に腰を下ろそうとして、倒れてしまった。近くにいた猿門が咄嗟に支えると猿鬼が医務室に連れていけと指示を出す。
それに返事をすると、猿門は名前を抱えてその場を離れた。





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