3



「ただいま戻りました」

「おかえり、千百合」

帰った私を出迎えてくれたのは、みんな大好きお館様。

実はなんと私はお館様の屋敷に居候させてもらっているのである!

私はお館様の主治医でもあるため近い方がいいとのことで基本はここで生活をしている。
たまに今日みたいに1人で出かけることもあるのだけど。

戦闘能力がないに等しい私は余程のことがない限り1人で外出はしない。


「お館様、今日からもしかして最終選別ですか?」


帰ってひと息ついたところでお館様に質問する。

私の力で辛うじて病の進行を抑えられているため、まだ失明していないその美しい瞳でこちらをじっと見られると気恥ずかしくなってくる。


「そうだよ。よくわかったね」


「蝶屋敷のカナヲちゃんがいなくなったって聞いて。
もしかして最終選別に向かったのかなって思いまして」


もう本編が始まっていたのか。

今一度、自分の記憶を辿る。

炭治郎の家族を救えなかったことは本当に申し訳なかったと思っている。

それ以外にも死をわかっていて救えなかった人は多くいる。

私は神様じゃない。万能じゃない。

唯一人の脆い人間だ。
それを戒めとして命の優先順位をつけなければならない。
でないと全てを取りこぼしてしまう…。


「千百合?」


お館様の声で記憶の渦から引き上げられる。
そして焦燥感で支配されていた心が落ち着いていくのがわかる。

お館様の声は本当にすごい。

聞くだけでどんな心でも落ち着いていく。
思考がはっきりしたところで私はある考えが浮かんだ。


「そうだ!
お館様、私も藤襲山へ行ってもいいですか?」


「どうしてだい?」


そう、山へ行けばみんなに会える!
接触を図っておくのは大事だと思うんだよね。

とか言いつつ、主人公たちを見てみたいという野次馬精神があるのも否定は出来ないのだが。


「それは許可できないかな」


あっさりと却下されてしまった。
まぁ予想はしてたことなんですけどね。


「千百合は昨日、私の治療をしたにも関わらず今日蝶屋敷でまた治療をしたね?」


ギクッと身体を揺らす。
お館様の優しい声の中に、諫める音が混じる。


「その状態で行ったらまた倒れてしまうよ」


実は私は何度か倒れている。
この力は便利ではあるがかなり体力を消耗する。

特に病の治療は消耗が激しく、お館様の治療の後に倒れたことは1度や2度ではない。

そのせいでみんな過保護になってしまった。
自分を治せないというデメリットもそれに拍車をかけているのだが。

午前中しのぶちゃんがぷりぷりしていたのも昨日のことを知っていたからだろう。


「今回はやめておきます…」


「いい子だね」


お嬢様方に言うような口調でちょっと拗ねる。

私はもう立派な22歳やい!

そっぽを向いた私にお館様は怒ることなく、優雅に微笑んだ。


あーあ、炭治郎達に会うのはまだ先になりそうだな…。

top