食後の片付けは手分けして早々に終わらせ、テーブルの上に乗っているのはそれぞれのグラスと麦茶ポットだけ。
萩原と松田の突き刺すような視線をシレッと受け流しながら結加理が口を開いた。
「ええと、じゃあ腹ごなしも終わったということで」
「うん。事情聴取って何があったの」
「さっさと吐け」
「言い方が物騒なんだよなぁ。……うーん、なんていうか、不審者と誘拐の同時多発に立ち合っちゃって」
射貫くような眼差しの萩原、ジトッとした目で問う松田への簡潔な返答。次いで深い嘆息と共に詳細が補足として告げられる。
「不審者はケーキとかフォークとかは関係なくて、マジモンの変態だった」
「……マジかよ」
これは予想外だったのか松田の頬が引き攣る。
「うん。で、同時に発生した誘拐の方がグループでの計画的なケーキ誘拐案件。これがどっちも目の前で起きてね……」
「マジかよ。先輩、お祓い行く? 俺調べとくよ?」
「……実は、もう行った」
「「マジかよ」」
彼等から留めと言わんばかりに放たれたユニゾンでの「マジかよ」に彼女の目が死ぬ。
何も好きで事件に巻き込まれたり立ち合ったりしているわけでは無いのだ。運とタイミングが良くないだけである。
……この世界では割と致命的であるため、こうして彼等に心配をかけている訳なのだが。悲しきかな、どれ程気を張ろうが注意を払おうが、一向に緩和されないのが現状だった。
(事件の前と後、どっちにお祓い行ったんだろう……知りたいような知りたくないような)
若干引き攣った表情のままの萩原は、どちらで答えが返ってくるのか怖くて聞くに聞けなかった。問おうとして静かに口を閉じたのは賢明な判断なのかもしれない。
まあ、それはさて置いて。
再三にはなってしまうのだが、結加理はケーキとフォークについてもう少し詳しく話をしたいと考えていた。
くどいと言うなかれ。数時間で終わる話ではないのだから仕方あるまい。
「食事前にした『ケーキのリスクが高すぎる』云々の話もして良いかな? それにも若干絡んでくるし」
事件遭遇の話に移ってから表情を引き締めている三人に視線を向けた。その方が彼等には話が繋がりやすくなり、今後警察官として動いていく中でも役に立つ知識が少しでもあるのではないか、と考えた為だ。
ケーキである結加理との関わりがある二人と違って事件性についても知らないことは多いはずなのだから。
提案の意図を理解したのか、松田は視線を萩原へ投げた。それを受けた萩原は深く息をつくと両肩を竦める。
どうすんだ、どんな流れにするのかはお前が意見しろ、といったところだろう。
結加理との付き合いは萩原の方が断然長い。必然的にケーキやフォークに関連することについても知識や関わりは松田よりも多いのだ。
「──分かった。ま、確かに俺と松田はともかく、実際にケーキの人が近くに居ないと知らないことは多いしね」
「そういうこと。皆、頭が良いんだろうし、端折れそうなところは遠慮なく端折るけど」
「りょーかい」
おそらくは食事前にある程度の話をしていたことも踏まえての積極的省略宣言。効率を考えたのだろう。確かに時間は有限である。
萩原としても説明や疑問の解消などにじっくり時間を割きたい気持ちは重々あるのだが、如何せん五人とも外出届を出してから外へ出てきているのだ。帰りはあまり遅くならない方が良い。
「んじゃ、順番はお任せってことで。先輩よろしく」
「はいよ。任された」
──ということで。
そう一言前置いて、結加理は先程後回しにしたケーキが負うリスクについて話し出した。
ケーキであるということは常に身の危険が付きまとうこととイコールで結ばれる。
身体を狙われ、時に命までも狙われる。ケーキだと自覚している……いや、自覚せざるを得なかった人間ならば身をもって知っていること。ケーキとフォークについての話をする際に、必ず触れる事柄である。
何度も明記するが、ケーキの人間が自覚するのは、フォークからの接触があってからなのだ。
その出来事が大きかろうが小さかろうが。事件性のある出来事だろうが日常の一部だろうが。
結局ケーキとフォークは切っても切れない関係性であると言わざるを得ない。
「ケーキだと判明した人間は、危険に晒される。これは良く聞く話だと思う」
「はい、フォークによる惨殺事件とか、最たるものですよね」
「そう。さっきは大まかに三つを挙げたけど、その他にも色々あるんだけど……うーん、その話はまた別の機会に回そうかな。とりあえずさっきの三つの話ね」
ケーキの人間が調理したものを提供する、ということ。
結加理は腹ごしらえ前に、この手段が普及しない理由として大きく分けて三つを挙げた。
一つ目、あまりにもケーキ側のリスクが高すぎるということ。
二つ目、ケーキの存在を狙うのはフォークだけではないということ。
三つ目、残念ながら通常思考のフォークだけではないということ。
残念なことに原因はこれだけではないのだが詳しくは割愛する。
今から詳しく話していく内容は殆どが一つ目のリスクについてだ。……と言うよりも、全てが一つ目に関わってくるため実質二つ目三つ目も
込みの説明である。さもありなん。
「まず、憶えておいてほしいのは、ケーキだって分かった人間のプライバシーなんてほぼほぼ守られることが無い、ってこと」
「えっ、情報規制されますよね……?」
思わずといった様子で声を上げた諸伏の言葉は間違っていない。法律でそう定められているのだ。
これもまたこの世界特有の要素の一つ。
「まあ表向きというか書類上はね。……でも、そんなのお構い無しな連中は存在してるでしょ」
「!」
犯罪に与する者、主に警察が目を光らせている連中の事だ。
結加理が言いたいことを正確に理解した三人の表情が強張る。自身たちがこれから関わっていくことになるのだから当然の反応だった。
「フォークからすれば喉から手が出るくらい欲しいモノ。それを知っているワルい連中はケーキの情報をどんどん集めていく。……それをどう扱うのか、なんて様々だけど」
「情報を……」
「高いらしいよ、ケーキの情報って」
生気の宿らない目で、結加理が随分と前に知ってしまった事実を淡々と告げる。何も感じていないわけでは無く、あえて考えないようにしているのだ。
ケーキと判明した人間の情報は黒々しい連中や場所では高値で売買される。
情報が流れた先に待ち受けているのは、フォークによる誘拐か、殺人か。はたまたフォークを相手に商売をする後ろ暗い連中たちによる誘拐の末、人身売買か。
可能性をぽつりぽつりと挙げていく度に諸伏と伊達の表情が曇っていく。フォークについて調べる過程である程度知っていたようだが、それでも詳しくまでは知る術が無かったのか降谷もまた同様に苦い顔だ。
「割とすぐに手に入るもんですよ、ケーキの所在情報って。情報管理してる場所に忍び込んだりハッキングしなくとも」
「……どういうことですか?」
「噂話がだぁい好きな人ってどこにでも居るよね、ってこと」
要は誰がケーキなのか、ということが最低限分かればいいのだから。結加理が言わんとすることを正確に察して五人の顔が強張る。
人の口に戸は立てられぬ、とはよく言ったもので。噂は水面下でじわじわと広がるものだ。それに加えて善意に付け込んだ情報漏洩も無いとは言えない。
──あそこのお嬢さん、ケーキだったって本当?
──私の娘が最近ケーキだと分かって、不安になってしまって……。
なんて切り出し方は情報収集のため相手の口を緩ませる常套句だ。いかにも心配です、という空気を醸し出せば良心を刺激された誰かが口を滑らせるということも少なくはない。
そこで残念なことに今回のような案件と繋がってしまう訳である。
「今回、グループによる計画的な誘拐の場面に立ち合ってしまったわけなんだけど。被害者であるケーキの人は全く自覚が無い人で、誘拐した複数人にはフォークが居なかった。……らしい」
「らしい、ですか」
「一般人が知れることなんて限られてるからね」
不確実な言い方しかできないのは、結加理はただの目撃者であり通報者だからである。詳しい情報は開示されていないのだ。告げられた事が事実なのかも定かではない。
通報した当時はケーキ誘拐案件だなんて考えていなかった上に気付けもしなかった。ケーキ同士も互いをケーキと認識できないのだから仕方あるまい。
──ケーキとフォークに関わる案件の難しさがここにある。事の発端の根底にある原因や元凶がすぐさま分かれば専門部署が動くことが出来るが、それを突き止めるのに通常の事件よりも時間がかかる。
その関係で専門部署の初動が遅れることが少なくないと聞いたことがある。いや、むしろ多いのかもしれない……というのは内情を知らないため憶測なのだが。
今回の一件で結加理が分かっていることは、誘拐犯たち全員に手錠をかけられたわけでは無いということ。被害者は
辛うじて無事だったということ。それだけだ。
「フォークだけじゃなくて、アンダーグラウンド的要素が満載な人間だったり組織だったりを相手にしなきゃならないなんて、ケーキ個人個人にゃ無理。絶対に無理」
げんなりと肩を落として放たれる言葉には酷く実感が込められている。
ぼかした言い方になってはいるが、つまりは裏社会の人間や組織ということだ。
武道家、警察官、自衛官などの自衛手段を身に着けているような者でなければ自分の身を守る事すら難しい。
いや、一対一ならばともかく、対複数人や組織が絡むとなると、訓練を受けている者であっても逃れきれずに被害にあう事例も少なくない。なにせ相手は人を人とも思わぬ扱いをする連中だ。どんな手段でも使ってくる。
「今じゃあ制度は整ってきてるけど、ちょっと昔だと相当ごちゃごちゃしてたらしくて。国側としても、犯罪を取り締まる警察側としても、これではマズい、となってから情報規制だけじゃなく保護も始めたっぽいしね。まあ、内容によって色々と条件が出てくるんだけど」
内容が内容なだけに重々しい空気が場を支配している。つい数分前までは和やかに食事をしていたというのに、今では見る影もない。
ふと何か思う所があったのか険しい顔で伊達が口を開いた。
「保護を受けるにも条件があるんですか?」
「あー、ごめん言葉選びが下手だったね。保護は本当にケーキなら誰でも受けられるよ。ただ、えーと、何て言ったら良いんだろ、グレード? オプション? ランク? によってケーキにも求められることが複数出て来る、っていうところかな」
うまく言葉が出てこないながらも結加理は懸命に頭を回し、伊達の問いに答える。
降谷がその斜め横で二人のやり取りでようやく納得したのか小さく頷いた。保護に条件? と僅かに首を傾げて眉を寄せていたのだ。
「一人暮らしならセキュリティが整ってる物件の斡旋だったり家賃の一部を負担してくれたり、家族と一緒に一戸建てに住んでるなら防犯装置の設置を負担してくれたり、あとは専用の通報装置の配布とか。これが基本ベースだね。特に何も申請とかしなくても受けられる保護と補助」
「なるほど、これにプラスされていくんですね」
「そ。一例として私のことを上げると……大学院生としてケーキとフォークに関する研究をしているけど、それとはまた別枠で正式に国の研究機関に協力している。……ここまではOK?」
「はい」
「そうなると、家賃の助成額が上がるし、防犯面での援助がかなり受けられるようになったりする」
ケーキとして研究機関に協力する手続きを取れば、その分の恩恵はある。様々な助成を受けられるのだ。
家賃もその一つ。このマンションが最たるものだ。セキュリティ環境が極めて整っている物件であり、一介の大学院生が住もうとは到底考えられない額の家賃である。例え結加理が幼い頃に亡くした家族の遺産を所持していたとしても、だ。
この制度があるからこそ、こうして大学院生で身寄りも無い彼女がこのマンションに住むことが出来ている。
「……大学院生の一人暮らしなのに、こんなに広くてセキュリティがかなり整ってるマンションに住んでるの、あれ? って思わなかった?」
「……えっと、実は少し……。実家が太いのかなとも思いましたが」
「実家は関係ないんだな、これが。そもそも実家もう無いし。……とにかく、その直感っていうか違和感に気付ける感覚は大事にしてね」
実家が無い。サラッと言われたことを一瞬理解できず、脳内で反芻した三人が揃って目を瞬かせる。
事情を知っている萩原と松田は僅かに目を細め眉を寄せた。しかし当の結加理は特に気にする様子も見せずに話を続ける。今は特別触れる必要はないのだから当然だ。
「一度でも襲われたケーキが、フォークとケーキを連想させる何もかもから距離を置くことが多いのは、何となく想像がつくかな?」
「想像、つきます。命を狙われるのと同義ですから」
「そう。だから積極的に国の研究に協力するケーキは少ないんだよね」
これはケーキに関しての研究が進まない一因でもある。
そんな現状を何とか打破しようと、非協力的なケーキからの協力を少しでも得られるようにと編み出された制度。そして、協力的なケーキは多少なりとも目立つため、様々な面で標的にされやすいことを踏まえた上での対応。
双方ともにメリットがあるように見えるが同時にリスクも負っている。残念ながらフォークや犯罪組織がどのような出方をしてくるか明確なパターンなど無い以上、ケーキが害される可能性が完全になくなるわけでは無いのだ。
簡潔にそう告げれば、各々から納得したような頷きが返ってくる。流石とも言うべきだろうか。三人とも理解が早い。
気持ちを落ち着けようと深く息を吐いて、結加理はマグカップに手を伸ばした。
(私の場合は色々行動しすぎて目立っちゃってるから、自ら進んで研究機関に協力せざるを得なかった……なんてことはとりあえず黙っとこう)
彼女には途中から選択肢などあってないようなものだった。
高校時代から稀に起きていた限界フォークの襲来。高校から大学へ進学する間際での遺産騒動。大学進学と同時に始まった一人暮らし。
彼女に接触してきた限界フォークの一定数は持ち歩いている菓子の影響で逮捕にまで至らず、その後も定期的に出没するようになったこともある。
──これで国の制度も警察の力も当てにせず生きていけると誰が思う。結加理は思わなかった。
迷わず制度を利用し協力者として国の研究機関に名乗りを上げた。
政府や制度に対してぶちぶち文句を言っていた身ではあるが、背に腹は代えられぬ。死ぬよりはマシである。
余談だが、親戚の男が篠原家の遺産に手を付けていた件については、『ケーキを預かってやっているんだから』という言葉に一瞬納得しかけたこともあった。それ程までに結加理を含めたケーキの身には危険が付きまとう。
しかし弁護士や他の知識情報の提供者などから「結加理を親戚の家に迎え入れた半年後から不当に遺産が引き出され始めていた」ということが判明したと告げられている。つまり不当に引き出していた理由は、フォークの襲来が親戚一家の近くまで及んだから、とは言えないと判断された。
そもそもケーキ登録制度による助成金や手当金の全額と+αは親戚一家に渡していたのだから、元々親戚の男の主張は筋が通っているとは言えなかったのだ。
閑話休題。
その数年後、まさか研究に協力している身でありながら、自身も研究の道に進むことになるとは思っても居なかった。
だがある意味で融通が利くようになったため結果オーライというやつである。
淹れた時よりもほんの少し温度が下がった紅茶で喉を潤し、結加理は再度息を吐く。カップを持っていない方の人差し指がトットッとテーブルを軽く叩くのは考えを纏めている時の彼女の癖だった。
家賃助成の他にも携帯防犯グッズの配布、防犯装置の設置、個人ではなく国の専門機関を通しての警察や警備会社との関わりを持てる、などの援助もある。
実のところ結加理の身に着けているアクセサリーの一部には防犯グッズが紛れている。有事の際に位置情報と緊急通報が発信されるものだったり、軽量化された小型のスタンガンだったり。このグッズたちにもグレードがあったりするのだ。
結加理が持つ緊急通報装置は直通で専門の部署へ通報と共に位置情報とリアルタイム音声が飛ぶため、ケーキとフォークに関わる案件だと判断できた時は遠慮なく活用させてもらっている。
ただ、今回のように分からなかった場合は宝の持ち腐れになってしまっているのだが。
──ちなみに、ケーキやフォークとは全く別の事件や案件で通報することもある。今しがた五人に詳細を告げた誘拐案件ではないもう片方は完全にこちらのパターンだ。
まあ今回は、同時に二件の事件を一度に通報、というイレギュラーであったため結加理も詳細を聞く側も若干混乱してしまったのだけれども。しかしそこは流石プロとも言うべきか、頭上に疑問符を浮かべながらも詳細を伝えられたのは聞き取りにあたってくれたオペレーターのおかげである。
最近では110番通報すれば「あ、貴女ですか、詳細をお願いします」という反応をされることが増えてきていた。何なら現役の警察官から「何かあったら直接連絡を寄越すように」などと連絡先を渡されていたりもする。
流石事件発生率が非常に高い東都。悲しい限りである。
こういった点において、犯罪を未然に防ぐという意味で警察との連携は互いにメリットがあった。情報の共有も同様に。
何故ならば、分かりやすく結加理という目印があるのだ。フォークからの矛先も集中しやすい。ある種、囮のようなものだ。
一般人を囮として利用するのか、と非難の声が上がったこともある。
だが既に結加理の存在はケーキとしてフォークやそれを取り巻く黒い連中などに知れてしまっているのだ。今更情報を規制しても最早手遅れ。ならばいっそ有効活用した方が様々な面において良いのではないか。
そう考えた人間が研究機関にも警察の上層部にも多くいた。
そして当の結加理はというと、明言はされていないが察してはいる。生気を失った目で「ですよねー」と呟いたのはいつの事だったか。
「先輩、大丈夫?」
マグカップを手に持ち、無言のままの結加理に萩原がそっと声を掛けた。
「ん? ……ああ大丈夫。ごめん何をどう話そうか考えてた」
「無理はしないでよ? 俺でも説明できそうな話は変われるしさ」
「ありがと。今んところ大丈夫」
「そう?」
「うん」
そう、特別無理をしているわけでは無い。
どの内容を順に話せば分かりやすく簡潔に伝えられるのか本当に悩みどころなのだ。
任せろなどと大口を叩いたくせに、いざ説明するとなると思考が纏まらない。彼女自身が思っていたよりも緊張しているようだった。
「……んーと、結構色々話してきたけど、ちょっとまとめても良いかな?」
「大丈夫です」
まずは降谷の方へ、次いで諸伏と伊達に視線を向ける。降谷から問題ないとの言葉、諸伏と伊達からは頷きを返された。それに頷き返して結加理は再度口を開く。
「とりあえず軽くまとめると、ケーキだって分かった人たちは保護を受けられるけど、フォークとの接触が無くて無自覚な人たちもいる。そんな無防備な人たちが危険に曝される確率を限りなく減らそう……っていう取り組みがされている、といった感じかな」
一度は動きが止まっていた彼女の細い指先が再びテーブルを叩き、小さく一定のリズムを刻んだ。
「ただ、ケーキだって周知されて情報規制も意味がない、手遅れ、って人が居ない訳じゃない。水面下で知られている人、表立って知られている人、どちらも一定数居る」
まだ彼等には伝えていないが結加理はこれにあたる。
今しがたの伝え方では、恐らく「身の安全のために自ら研究機関に協力し保護制度を最大限に活用している」としか思われていないだろう。別にそれでいいのだ。あまりベラベラと自分の事を中心に話す必要性が無かったためである。
「……その場合、水面下で知られている人は特に対策が難しそうですね」
「そうだね。本人が自覚してなかったらほぼ詰みだろうと思うよ」
「だから、手袋……。工場、店舗、どんな場所であれ、確かに特定しようと思えば出来てしまいますね。一つ処に集まっているということになりますし」
「うん。流石だね降谷くん」
非常にも困ったことに、ケーキには無自覚のままの者が多い。つまり保護を受けずに生きているケーキが多くいるのだ。──その無自覚のケーキたちを守るためでもある。
無防備にその身を曝される機会を減らそうとしたのだ。おそらくこの推測は間違っていないだろう。
ここで誤解の無いよう明記するが、彼女は誰彼構わず手料理を振る舞っているわけでは無い。例外として、大学時代の宅飲みで軽くおつまみを作った時くらいだ。
──先程萩原が降谷を抑えていた際に言った「同じ反応をした人が居た」というのはこの時の出来事を指している。
そして今回は萩原と松田の友人であり、二人が招いても大丈夫だと判断した人物だ、という認識から起きた出来事。いや、言うなれば不慮の事故だった。
とつとつと話し続けてきた中、各々が内容を飲み込もうとしているのが分かる。しかし、納得したような少し疑問が残るような、理解したようなしていないような、なんとも煮え切らない表情だ。
食事前に告げたこと、今しがた伝えたこと、情報が中々多いのだから仕方あるまい。ざっくり話をしたが当事者や関係者でも無ければ深く知らない事である。
さもありなん。
「ごちゃごちゃ色々話したけど、これがさっき手料理を提供しようにもケーキのリスクが大きいって言った大体の内容。細かいところは端折ったから、まあ、もしも説明が必要な時が来たらその時にまた話すよ」
そんな「もしも」など訪れない方が良いのだけれども。内心でそう呟き結加理は静かに目を伏せた。
2023/7/7/
あまりにも長くなりすぎたので分割。
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