数時間後に合流することが決まり、一時的に「萩原の先輩」と別れた五人の間に会話は少ない。萩原と松田以外の三人、先程別れたばかりの彼女と初対面である彼等が揃って何かを考えるようなそぶりを見せているためである。
そんな若干スッキリしない空気を破ったのは伊達だった。
「お邪魔する俺たちが言えたことではないかもしれないが、萩原、お前の先輩危機管理大丈夫なのか?」
パッと見ただけでも筋肉の付き具合から鍛えているのであろうことは見て取れた。しかし一人暮らしの女性が男性を五人も自身のテリトリーに招くなど、不用心すぎるのではないだろうか。それもその内の三人が初対面である。
「確かに鍛えているんだろうけど、初対面の男を数名も自宅に招くなんて……」
「え、結加理先輩? むしろ人一倍警戒心が強いし危機察知能力も高いよ?」
伊達に続いて同意するように口を開いた諸伏へ萩原はニッコリと言い切った。どこか誇らしげで、それでいて非常に複雑そうな顔で。
その横で松田が何とも難しい表情を浮かべている。次いで、あー、と言いにくそうに口を開いた。
「……大学ん時に、コイツのストーカーを物理的に取り押さえてくれたの、あの人なんだわ」
「そうなんだよね、しかも、相手はひょろかったとはいえ男」
「「「えっ」」」
初耳だった。しかも内容が内容なだけに一瞬理解がしきれなかった。中々に情報量が多い。
逆ではなく? と思わず聞き返しそうになったのを伊達は寸前で止める。
「俺が居りゃ良かったんだが、ちょうど一瞬離れた隙を狙われたからな……」
「その時に『取り押さえるためとはいえ、物理的な接触は相手を喜ばせるだけだから萩原は下がってな、いい子だから』って言われてさ。先輩と俺の性別が逆だったら惚れてただろうなぁ」
「その話を聞いた時ほど、あの人が生まれてくる性別を間違えたんじゃねェか? って思ったことは無ぇよ」
うんうん、と松田に同意するかのように頷く萩原は更に言葉を続ける。
「先輩かっこいいからね、色んな意味で」
「あの顔でな」
「ソレは言わないであげてくれないかなじんぺーちゃん」
顔に似合わず、などという言葉は聞き飽きるほどに言われているのだ。それを萩原は良く知っている。僅かに眉を下げぶっすりと釘を刺す。
ひょいっと肩をすくめた松田は自然と視線を逸らした。地味に圧を感じたのだ。そんな彼を一瞥し、萩原は真面目な顔で三人に向き直る。
「セクハラとか性的な加害に対して、すごく敏感なんだよ。鼻が良いって言うか、目が利くって言うか……とにかく自分に
そういった目とか感情が向けられたら直ぐに分かるし、反射的に警戒してる」
「それは……」
「……まあ、先輩、あの容姿もあって変なのに絡まれることもあったらしいから。髪を短くしてるのもソレが原因の一つだし」
「そうなのか?」
「優しい顔立ちしてるからさ、基本的に舐められるんだよ。女性的な格好をしているとそれが割り増し、って言ってた」
それは萩原本人にも言えることだが、今は関係がないため触れずにおく。
実際、萩原が結加理と出会ったばかりの頃は髪が長かったのだ。それこそ毛先が背の中ほどに届くくらいに。それがいつの間にか男性と見間違うほど短く切り詰められていた。
今では萩原の方が断然長い。何なら降谷よりも短いだろう。
結加理は絶世の美女という訳ではない。だが顔は比較的整っている。派手ではないが、どことなく目を引かれる。ちょっとした動作一つとっても滲み出るものがあるのだ。弓道や武道などで身に付いた美しい所作や姿勢、立ち振る舞いの所為か、不思議と他者の視線を集めてしまう人間だった。
若干垂れ目がちなせいか、気弱だと思われることも多々。まだ身近さを感じさせるため手を伸ばしやすいと判断されるのだろう。少し強めに出れば折れるとでも考えているのか、結加理に絡んでくるのはやたらと変にしつこい輩が多い。
前述の通り、気弱そう、押せば流されそう、反抗出来なさそう、などが第一印象として抱かれる。──まあ、実際はそんなことなど無く、笑顔は保っているが温度のない目で躱されて終わりだ。しつこさが過ぎればそれなりの反撃が待っている。
「ま、髪が短すぎて性別間違われることもあるみたいだけど」
「……すまん、声を聞くまで男性だと思ってた」
「右に同じく」
「後ろ姿だけじゃ仕方ねーよ」
うーん、と複雑そうな表情で萩原は僅かに肩を落とす。体を鍛えていることもあり女性にしてはしっかりとした体つきなのだ。これまでも何度か間違われている場面を萩原は目撃している。
髪型一つでこうも変わるとは。髪をバッサリと切った後、しばらくして「変なのに絡まれるのが減った」とそれはもう清々しい笑顔で報告してくれた結加理が脳裏を過ぎった。
話は若干逸れたが、萩原から見て結加理は別に警戒心を捨てているわけではない。むしろ常に気を張っているようにすら見える。
それが萩原や信頼する人間の前では少し和らぐのを知っていた。その信頼がくすぐったくもあり誇らしくもある。
「だから先輩は別に無防備晒してるわけじゃないってこと。それに今回は俺と松田の友達ってことで、先輩としては安心要素があったからの判断だろうし」
「……俺はほとんどお前を通じてしか接点ないけどな」
「ソレはほら、俺の人徳ってやつ?」
「お前に? 人徳ぅ?」
「じんぺーちゃん酷い!」
松田にジトリと半眼を向けられて萩原はわざとらしく嘆いた。本心からの言葉ではないことは分かっているからだ。
「まあともかく、
そういった視線や感情について、先輩はかなり敏感だし神経質だしすぐに気づく。……だから──いや、これはいいや」
「何だよ中途半端に」
「んー、俺も色々考えてるって事だよ」
へらりと笑って萩原は松田からの追及を誤魔化す。
そんな彼の様子に顔を見合わせた降谷と諸伏はそれぞれ肩をすくめた。その横で伊達は深く息を吐く。
萩原は一見軽薄そうに見えてその実かなり考えて行動している。頭の回転も速いため気付くことも他者より多い。そして何より性根が優しいのだ。特に、自身の懐に入れた相手に対しては殊の外。
付き合いが長い萩原がそう言うならば、自分たちがこれ以上言うことはないだろう。そう判断した伊達たちはいったん話を切り上げたのだった。
2022/10/23/
彼等が一見無防備で警戒心が無さげに見えた女性に対して心配にならないわけがない。というのと、萩原くんの何やかんや。
この時期の夢主の髪は短いです。襟足部分は剃ってるくらい。確実に降谷くんよりも短い。
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