青い傘




厚い雲に覆われた空からは雨が降り続いていた。テレビから聞こえてくる予報では今日一日止むことはないという。どこかため息をつきたくなってしまう暗い気分。雨はあまり好きではない。

こんな日は大人しくしていよう。テレビを消してごろりとソファーに寝転がった。窓を叩く雨音が心地よく眠気を誘っていく。

「名前ー!!」

「え!?」

雨音とは明らかに違う、ドンドンとドアを叩く音と私の名前を呼ぶ声。遠くなっていた意識を慌てて自分の元へと引き戻し、私はドアに駆け寄る。声の主は間違いなくわかっていた。けれどこんな雨の日にどうして。半信半疑でドアを開ければそこにはやはり青い傘をさしたクダリの姿。

「名前!こんにちは」

「クダリ!どうしたの?」

「名前何してた?」

「ちょっとうとうとしてたところ。雨だからどこにも出かけられないなあと思って」

「それならちょうどよかった」

にっこりと意味ありげに微笑んだクダリは私の手を引き、自分の傘の中へと導いた。1人用の傘の中ではクダリとの距離はぐっと縮まる。突然の訪問、突然の距離。戸惑いを隠しきれないままクダリを見上げれば、彼は傘を持っていない左手で私の頭を満足そうに撫でる。大きな手の温もりはとても心地がいいが疑問は増えるばかりだ。

「クダリ?」

「ぼくね、雨はあんまりすきじゃない」

「うん?」

「だって遊びにもいけないしつまんないことばっかり。でもなんとかすきになりたいと思って考えてたらね、すっごいこと思いついた!」

まるで大きな悪戯を思いついた子供のようだ。クダリが生粋の悪戯っ子であることにかわりはないが、それでも今回は特に嬉しそうに見えるのは私の気のせいなのか。

「雨の日でもね、だいすきな名前がいればきっと楽しくなるなあって。同じ傘でお散歩。きっと雨もすきになれる。どうかな?」

いつも真っ直ぐに言葉を伝えてくれるからクダリはまったくずるいひとだ。返事はどこかくすぐったさを含んだ照れ笑い。降り続ける雨の中、ご機嫌に鼻歌を歌いだすクダリの隣で傘に当たる雨音を聞きながら同じ歩幅で同じ道を歩く。

「どこまでお散歩するの?」

「んー、雨が止むまで!」

「今日は1日雨だよ」

「じゃあずっとお散歩できるね」

傘を持つクダリの腕にそっと触れて、カラフルに色づく雨の世界。いつしかこのまま雨が止まなければいいのにと考えている私はきっとどこまでも単純なのだろう。