被害2:職権濫用




スーパーシングルトレイン。この場所のポケモンバトルには手加減という甘えた考えは存在せず、一戦一戦が闘志全開の真剣勝負。ポケモンたちの技のぶつかり合いはもちろんのことだが、トレーナーの一瞬の判断が勝ち負けを大きく左右するのだ。

「よし!一気に決めよう!」

自身最大の大技を見事に決めたパートナーは、相手のポケモンが倒れたことを確認すると嬉しそうに身体を揺らした。今日はとにかく攻めて攻めて攻めまくる攻撃重視の戦い方。それはどうやら型にはまったらしく、私は順調に勝利を重ねていた。脳裏に浮かんだのはノボリさんのアドバイス。そんなはずはない。これは私自身の決断だ。考えを誤魔化すように汗で乱れた前髪を手櫛で整える。

「おめでとうございます!!見事なバトルでございました!」

「でたなストーカー!」

「まさか#name#さまからそのような呼び名を授かるとは!距離が縮まった証としてありがたく受け取らせて頂きます」

「いくらなんでもプラス思考すぎませんか」

「わたくしの取り柄でございます」

「妙な説得力」

7勝目のホームにて私を待ち受けていたのは案の定ストーカーの名を我が者にするノボリさん。いつからいたのか、仕事はどうしたのか、バトルの予定はないのか。言いたいことは山ほどあったが、返答におおよその検討がつくのでやめておく。

「バトル見ていたんですね」

「ええ、もちろん。やはり攻撃型にしたのは正解でしたね。指示に迷いがないように思いました」

「それは…そうですけど…車両に姿は見えなかったのにどうやって」

「各車両には監視モニターがございます。主にトラブル防止のためなのですが、そこはまあサブウェイマスターとしての力を存分に発揮させて頂きました」

「職権乱用!!」

「使えるものは最大限に使う主義です」

さも当然のように答えたノボリさんに悪気は一切存在していない。バトルサブウェイを束ねるボスがこのような様子では駅員さんたちも色々と苦労しているのだろう。いや、ストーカー癖さえなければ真面目な人だ。そこはうまく誤魔化しているのかもしれない。

「そんなことより早く仕事に戻ってください」

「そうですね。実に名残惜しいですが本日はバトルの予定がありますので失礼させて頂きます。#name#さま、どうか今日はゆっくりと体を休めて無理はなさいませんように。あなたさまにもしものことがありましたらわたくし、」

「わあああわかりました!早寝早起きを心がけます!」

「お願いしますね」

大きな手が私の頭を柔らかく撫でる。バトルの疲れがあったのか思わず避けることを忘れてその手を受け入れてしまった。妙に心地よくて無条件に安心を覚えてしまう。

「本当に、本日はおめでとうございます」

いくらストーカーをしていても、いくら信頼に欠けていてもノボリさんは確かにサブウェイマスター。その職務は忙しいはずだ。もしかして私におめでとうを伝える、ただそれだけのためだけにここにきたのだろうか。

「ありがとうございます……」

いや、いくらなんでもそれは自惚れに過ぎないだろう。