第四話


第四話 瘴気の原因

さて、小狐丸の一件を何とかするとは言ったがどうしたものか。自分を見舞いに来てくれた刀剣男士達は一旦自室に戻ったようだが迂闊にこの本丸を一人で練り歩くのは危険だ。未だに自分の存在に納得がいっていない者がいる、と言っていたのでその子達に襲われる可能性もある。

外を見る限りでは、今は昼餉辺りだろうか。先程、一期一振が「貴殿が倒れた後、本丸は以前のように機能しはじめています」と教えてくれたので、この鼻につく美味しそうな匂いは歌仙兼定か燭台切光忠当たりが作っている昼餉の匂いだと思う。お腹減ったなぁと呑気に部屋から外を眺めていると、新たな来客がお盆をもって現れた。

「そんな格好で…雅ではないね」

会った早々、顔を顰めて叱責してきたのは歌仙兼定だ。その後に顔を表したのは、燭台切光忠。

「歌仙さん、着替えが見当たらなかったからだと思うよ」

苦笑しながら、歌仙を諌めてくれる燭台切だが生憎そういった理由でこんな身嗜みをしている訳ではない。ただ面倒なだけだったのだが、ここで理由を言ってしまったら燭台切の助けも無碍にしてしまう。合わせるように頷けば、溜息をつきながら歌仙が「失礼するよ」と部屋に入ってきたので姿勢を正せば微笑まれた。
一応、生前は武道や華道を嗜んでいたので失礼の無いよう無意識に動いたつもりだが、歌仙の機嫌を更に損ねることは無かったよで安心する。

「昼餉を持ってきたよ」
「あと、着替えもね。山姥切くんに替えの服を借りてきたんだけど合うかな?」
「ありがとうございます、それに服まで…」
「山姥切くんがら申し出てくれたから、お礼は彼に行ってあげて」

流石伊達男。服もわたされたが、その時にウインクまでついてきたのでナチュラルホストとはこいつの事かと思ってしまう。ホスト以上の顔の持ち主なんて、この本丸全員に当てはまる事なのだが。

「わかりました。でも、俺の眠ってた間に何でこんなに?」

刀剣男士達が何故こんなに協力的になってくれたのか。起きてから疑問に思っていた事を聞けば、二人は顔を見合わせてから話を進めてくれた。

「君が昼餉を食べている間に話をしてあげるから、ゆっくり食べるといいさ。冷めてしまっては作った意味がないからね」

歌仙が食事を促してくれたので、箸をとり食事を始めれば燭台切が事の経緯を話始める。

「さっき三日月さんに会ったんだけど、大体は聞いていると思うからそこは省略させてもらうね。あの瘴気に包まれている時、心の臓は人間を憎む気持ちが大半を締めていたんだ。ただ人間という存在が憎い。その感情しかなくてね…僕達にあんな事をした人間は許さない、殺してやるって。でも、君が来て倒れた後に皆瘴気が薄れてきてから気付いたんだよ。僕達は刀だ」
「刀?」
「そう、刀。僕達は皆、使われる為に生まれてきたものだからね。根本的に人間を嫌いになることなんて出来ないんだよ。」
「そういう、ものなんですか…?」
「そう、そういうもの。どんなに前任の審神者が最後にああいったことになっていたとしても、それ迄は素晴らしい審神者だったんだ。瘴気に呑まれて忘れてしまっていたけどね」
「お伺いしています、真面目な方だったって…」
「ここまでこの本丸を大きくしてくれたのも前任の審神者だった彼女。あの男に会うまでは、とても健気で可愛らしかったんだよ」
「…」
「怨むべきは彼女を堕ちさせたあの男なのに、その本質も分からなくなってしまう程に瘴気に呑まれてしまっていた。けれど、君の霊力や行動が僕達を救ってくれたんだ。ありがとう、君のおかげだよ」
「いえ、そんな…」
「君の霊力は澄んでいて、心地がいいんだ。僕達にはそれで十分!信頼するには十分だよ。」
「裸見られてるみたいに恥ずかしいんですが…」
「あはは、人間にとってはそうかもしれないね!霊力を介せばある程度僕達は、その人の本質は見えてしまうから」

困った顔で燭台切が笑うから、刀剣男士達も見たくて見ている訳では無いんだろう。ということは、審神者の心の乱れは本丸の維持にも直結しているということになるので、審神者になったなら気を付けなければならないということか。

「盗み見ているみたいで雅ではないけどね、どうしても僕たちにはわかってしまうんだ」
「僕達は君を信頼し信用するし、次期審神者としてこの本丸の主になって欲しいんだ。…だめかな…?」
「駄目…では無いですが、その前にやる事があります」
「小狐丸さんだね…」

「どうすればいいか、相談に乗って下さりますか?」

ちょうど昼餉も食べ終え、箸を置く。二人の顔を見つめれば頷き了承してくれた。







「皆さん、集まって頂き申し訳ありません」

山姥切から借りた内番服を着て、刀解部屋の前に立てば後ろに集まってくれた面子が内番服で帯刀して並んでくれた。

「三条の者が苦しんでいるなら、尚のこと放ってはおけないからね」

石切丸が、頭をポンポンと撫でながら言ってくれ皆に視線を移せば各自頷いてくれた。今回、集まってくれたのは三条派の者達だ。ほかの者も付き合うと言ってくれたが、最高練度に達した者達が何人も暴れまわってしまったら本丸が崩壊してしまうかもしれないので、丁重にお断りしておいた。
ここに居る面子も殆ど最高練度に達しているが、自分の兄弟に下手にでることはないだろう。

「さっきお伝えした通りですが、皆さんはそこで待っていてください。もしも小狐丸様が…」
「あなたをころそうとするのでしたら、ようしゃなくきりますね!」
「今剣様、小狐丸様を殺さないでくださいね」
「わかっていますよ!そんなへまは、しません」
「はっはっはっ!この岩融、次期主の為なら最善を尽くそうぞ!」
「岩融様はもしも小狐丸様が出ていかれようとしたらお願いしますね」
「任された!」

岩融と今頃が同じ様に胸を張り励ましてくれる。小狐丸は本当に良い仲間を持ったんだなぁとしみじみと思ってしまう。
生前の自分の友人も、岩融や今頃のようにおおらかで優しさに満ち溢れていた人物だったから。

「そうだなぁ。腕の一本や二本は大目に見てもらうがな」

三日月が物騒なことを言うので、顔を顰めながら見れば「あやつは最高練度に達しておるし、暴れれば無傷ではすまんだろう?」と言われる。確かにそうだが、出来るかぎり助けた早々、手入れは嫌だ。

「じじいだからなぁ、よく目が見えぬから誤って落としてしまうかもしれぬが許せ」
「それ、言い訳ですよ三日月様」

溜息をつき、結界のはられた扉に手をかければ一瞬火花が散った後護符が消滅した。この霊力は、石切丸が結界をはってくれたようだ。

ギィ…とホラー映画でよく聞く不気味な音を立てる扉。半分程開ければ、一気に瘴気が溢れてきて気持ち悪さに顔を顰める。一人でこれだけの瘴気をだせれるのだ、早くしないと完全に堕ちてしまうかもしれない。
刀解部屋も中々の大きさで、先が見えない程広い様だ。暗闇が広がっている。外観ではあまり広く大きいと感じなかったが、某国民アニメの四次元ポケットみたいな感じなのかもしれない。
灯がないのでどうしようかと思っていたら、三日月から蝋を渡された。

「これを持っていくが良い。気を付けるのだぞ」
「はい、わかりました」

受け取って三日月にお礼を言えば、三日月が眉間に皺を寄せ暗闇を睨み付けた。
目線に沿って自分も視線を暗闇にむければ、闇からヒタヒタと足音が聞こえてくる。

「おぬしから出向いてきたか」

三日月が暗闇に声を掛ける。この感じ、小狐丸のようだ。暫く止まっていたが、またヒタヒタと足音が近付いてくる。

「堕ちたなぁ、小狐丸よ!!!」

三日月が言った瞬間、目の前に火花が散った。そのまま肩を押され、後に退けられ三日月と小狐丸の鍔迫り合いが始まる。
刀解部屋に響き渡る、刀同士が交わる音。そして怒声。

「何故!何故、人間につく!?三条の刀であろう者が下賎な人間などに!!!」

小狐丸がありったけの力を込めて叫んでいるのが分かる。憎しみ、悲しみ、悲願、呪怨。全てが込められた言葉。そして瘴気。小狐丸か一言何かを言う度に、瘴気も共鳴しているのが濃い瘴気の波が襲ってくる。

「忘れたか!小狐丸!俺達は刀だ!!!」

三日月も、負けじと声を張り上げて応戦する。冷静さを欠けた小狐丸の方が今は押されているようだ。ブシュッと、聞いたことが無い音がしたかと思えば小狐丸の利き腕が宙を舞い、壁にぶち当たった。

「はぁっ、は…ぁっ」

べチャリと音がして、小狐丸の腕が床に叩きつけられる。見たことが無い光景が目の前で繰り広げるが、如何せんこういった光景はゲームやアニメで見慣れているので吐き気はしない。ここまでの血臭がするとは思わなかったので気持ち悪い、とはおもうが。

「三日月様!そのまま、小狐丸様を抑えてください!」
「あい、分かった」
「今剣さん、小狐丸様の刀を…!」
「わっかりましたぁ!」

三日月が飛び掛り、小狐丸の肩に刀を刺し地面に縛りつければ小狐丸は暴れ回ってある方の腕で三日月の刀を握り締める。今剣は言われた通り、小狐丸の刀を持ち出してくれた様だ。これで小狐丸は何も出来なくなった。

「ぐぅっ…三日月、貴様…!」
「悪いな、小狐丸。次期主の頼みだ」

悔しそうに刀の刃の部分を握り締めるが、ふいに小狐丸が笑を浮かべる。三日月が危険を感じ刀を抜こうとした瞬間、小狐丸の背中から黒い瘴気を纏った巨大な百足が出てきた。

「くくっ、三日月!貴様も堕ちろ…!」
「小狐丸!」
「そうは!させません…っ!」

百足が三日月を襲おうとした瞬間、手を合わせ目の前にかざせば陣の様なのが浮かび上がり。やり方なんて習ってもいないし、やったことも無いのに火事場の馬鹿じからとはこの事か。陣の中に溜め込まれた霊力を全身全霊を込めて百足に放った。

「キシャアアアアアッ!!!!」

霊力を放てば、暗闇が一気に消え。その反動で自分の身体も後ろに吹っ飛ばされたが、石切丸と岩融がうけとめてくれた。

「はぁー、はぁっ」

自分の身体じゃないみたいに動悸が激しく、重みがのしかかる。霊力を調整せずに放出してしまったせいだとは思うが、こんなにも疲労がすごいのか。冷や汗が止まらないが、そんなことに構っていられる場合ではない。

「岩融様!小狐丸様を手入れ部屋に…!直ぐに手入れを!」
「わかった!」

岩融にお願いをして、自分も手入れ部屋へ行こうと足を動かせば石切丸が腕を掴んで引き留めてきた。早く行かなければいけないのに。

「君も休まないと、また倒れてしまうよ!?」
「大丈夫です、石切丸様の大切なご友人でしょう?」
「君が!倒れてしまうと行っているんだ!」
「石切丸様、大丈夫です。一人手入れしても倒れないぐらいの霊力はあります。…たぶん」
「良いではないか、石切丸。自分の力を知るのもまた、経験よ」
「三日月…」

三日月の説得に渋々と言った様子で手を離してくれたが、石切丸はそのまま腕を腰と膝裏に回し一気に持ち上げてきた。俗に言う姫抱き、と言うやつだ。男なのにこんなに軽々と持ち上げられて悔しすぎるんだが。

「ちょっ、自分で歩けます…!」
「これぐらいはさせてもらわないとね、友人を助けてくれたお礼だよ」

微笑まれたら何も言えまい。そのまま、石切丸に連行されるが、後に姫抱き事件として皆に騒がれるのはまた別のお話。






END

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