Life is ... vol.11





梓さんと呼ばれた女の言葉をきっかけに仕事中の2人は会計を済ませると、非番の俺を残して、佐藤と高木の二人は仕事に戻っていった。
警察学校を卒業以来音信不通の同期と同じ顔、同じ声の奴が、喫茶店の店員をして胡散臭い笑顔で笑ってるのをみたとき、声をださなかった自分をほめたい。
安室透と名乗った男は、俺が知る限り【降谷零】だったはずだか、【降谷零】は、目の前の安室さんみたいな胡散臭い笑い方はしないんだよなと警察学校をトップで卒業した男を思い出す。交番勤務を終えて以来音信不通だった男が別の名前で目の前にいることを考えれば、どこに配属されていたのか想像はつくが・・・にしても、目の前の男は本当にあの【降谷零】なのかと疑いたくなるほど、紳士だった。
(あいつはもっと苛烈だからなぁ)
Domとしうダイナミクス性を持っていたせいもあるだろうが、あいつは苛烈だった。俺はNormalだからダイナミクス性は持たないし、あいつのGlareを受けても特に何も感じた事はないけれど、あいつのGlareのせいでいったい何人のSubが授業中に倒れたか。警察学校という空間において、ダイナミクス性を持つやつらだけを集めた授業があった。歴代の卒業生の中で比較対象になる卒業生はいないとまで言われた強さのDomに相応しい苛烈な性格が今は紳士の皮をかぶってる。
「ご迷惑をおかけしてます」
ただ、そんなこいつと梓さんと呼ばれる女性は気軽に話してる。ここにいることをこいつ自身もそれなりに楽しんでいるからこそのこの会話なんだろうが・・・。
「それがなければ、すっごくいい同僚なんですけどねぇ。あっ、後JKの炎上がなければもっといいかな」
それに、こいつに対して軽口を叩ける人間ってのは警察学校でも俺ら伊達班のメンバー以外はいなかった。あいつはいつも一目置かれてた。アルファでセンチネルでDomなんていうエリート中のエリートみたいな性を持っていたわけだから女はもちろんオメガにとって喉から手が出るほど欲しい男だったわけで。あいつは人との距離感を広くすることで自分を守ってた。
「炎上・・・」
「そうなんです。おかげで私の大好きな楓さんがあんまりお店に来てくれない・・・」
「楓さん・・・?」
「昔からの常連さんなんですけど、楓さん、安室さんのこと苦手みたいで・・・」
梓と呼ばれてる女が苦手みたいと口にした瞬間、本当に一瞬表情がゆがんだこいつを見て、おやっと思う。苦手みたいと言われたこいつの表情にイラつきが見えた。すぐに淋しそうな表情に変わったけれど、ほんの一瞬確かにイラつきを見せていた。
「えっ、僕、嫌われてます?」
「へぇ、モテそうなのに。嫌われることあるんだな」
「嫌ってるとうか・・・楓さんが避けてる感じ?」
こいつの性格だ。きっと今は安室透になり切っている。【降谷零】なら感情を表に出すこともあるだろうが、安室透はいらつきを見せない紳士という設定だろう。そんな自分に課しているはずの設定をも凌駕する感情の揺らぎをこいつに与えた【楓さん】という女はどんな女なのか。大抵の女は、目の前にいるこいつの外面の良さに騙されるだろうに。
「僕、避けられてます?」
「わかんないですけど・・・でも、楓さん、たまに差し入れとか持ってきてくれたりしたんですけど、静かにご飯食べてお茶飲んで帰る女の人なんですけど・・・JKたちあむぴって安室さんのこと読んで賑やかだし、そういう空間が嫌なのかもしれないですけど・・・」
「あー、まぁあれか。店の雰囲気が変わって足が遠のいてるのか、安室さん・・・のことが苦手なのかで・・・梓さんでいいのか?」
「はい、いいですよ」
「梓さんは考えた結果、苦手の方を取った?」
「あってます。安室さんが働きだしてから、楓さん勘がいいのかずっと安室さんのいない日ばっかり来店してたんですよ」
「それもすごいな」
「ですよね!私もすごいなって思いました。楓さんってそういえば第2性以降なんなんだろう?って私知らないんですけど、すっごい勘してますよね」
その【楓さん】がセンチネルなら遠くから店の中を見てこいつのいないときを狙って来店とか考えられるけど、そんなことに能力使うやついるのか?
あー、でもあいつはそういうことに能力使ってたな。女やオメガから逃げるのにセンチネルの能力存分に使ってたわ、そういえば。
「安室さんは仲良くなりたいみたいんですけど・・・」
「本当のこと言えば、彼女が僕を避けているのは、なんとなくですけどわかってるんです。ただ、避けられる理由がわからないですし、僕は彼女のこと結構すきなんですけどね」
「へぇ・・・安室さんみたいなタイプでも女に苦手に思われるんだな。おもしれぇ」
(けど、面白くねえなぁ)
こっちは、こいつと連絡がつかなくなって、萩原と伊達とどうしてるのかって心配してたっていうのに、当の本人はこんなところでニコニコ笑って喫茶店の店員してる。
本当、一泡でも二泡でも吹かせてやりてえ気分だと思うも、一人でくるよりどうせなら萩原と一緒にきてそのまま家にでも連れて帰ってこれまでのこと吐かせてやる。
言えないこともあるだろうが、そんなことかまうもんか。
同期を俺らをさんざん無視したんだ。ぜっていもう逃がしてやるもんか。
「・・・今度、またくるわ。飯うまかったし。安室さんが気になる女の話の続きも聞きてえし」
伝票を手に席を立つ。女が絡んでるなら、萩原がいるほうがきっといい。
「・・・店員としては、お待ちしてますと言うべきなんでしょうね」
一緒に歩きながらレジへ向かう横顔は、あれから7年も経ってるなんて感じさせないほど変わってない。
「嫌そうなかんじだな」
「そんなことは。そう思わせてしまったら申し訳ないです」
「またいらしてくださいね」
「おう。今度は佐藤がおススメだって言ってたからすみパスタも食べてみてしな」


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once again