Life is ... vol.3





子どものころ、教えてもらったこと。
プログラミング、ハッキング、クラッキング、ピッキング、武道、柔術、護身術、軽業、料理、裁縫、楽器演奏、歌、ダンス。
私の親は私を何にしたかったのかな?と、いつも思う。その答えを聞くことはできないけれど、あの頃の経験が今の私には役立ってるかといえばたってない。
今の私はしがない物書き。荒事とは無縁に生きたい。
そうそう、前世の記憶を思い出したとき、この世界の多様性に驚いた。
この世界には、男女という性別カテゴリの他に、オメガバース【アルファ/ベータ/オメガ】、センチネルバース【センチネル(センチネルorパーシャル)/ガイド/ミュート】、Dom/Subユニバース【Dom/Sub/Switch/Normal】というカテゴリがあり、それぞれ自分がどのカテゴリにおいて何になるのかを、ほとんどの人は知っている。
人口比率的に少ないのは、オメガとガイドとDomだろう。逆に多いのはベータとミュートとNormal・・・つまり大半の人はこの中に入る。私は、この大半の人の中に紛れるように息をひそめて生活している。
前世の記憶と今の記憶が融合した時、一番困ったのがこの多様性に慣れることだった。
まず、オメガバース。これは非常に厄介なカテゴリだと私は思う。オメガという性を持つ人は男性であれ女性であれアルファの人の子を宿すことができる。人口減少に歯止めをかけられる繁殖に優れた第二の性であるが、ヒートという発情期が比較的定期的に彼ら彼女らを襲う。このヒートはアルファに対して無差別に発情を促すホルモンを発する時期のため、オメガ性の人は、非常に襲われやすい傾向がある。またオメガは、アルファの運命の番になると番に対してのみ効果のあるヒートを起こすようになるため、自分の身の安全のために運命の番を得たいと考えるオメガ性はとても多いとされている。
では、アルファ性はどうなのか?というと運命の番を求めるタイプと運命の番という言葉も成り立ちも忌避するタイプと両方いる。なぜなら、ヒートは発情であり本能でしかない。感情を伴うものではなく、愛する人は別にいるのにオメガのヒートに当てられてしまい悲しい結末を迎えるカップルも世の中には一定数いるからだ。そして、アルファには優秀な人が多いため、本能に支配された自分を嫌悪する人さえいるのが現実である。まぁ、オメガもヒートで苦しむから抑制薬、アルファもヒートに当てられて苦しむから抑制薬を飲むわけで、身体には悪そうだと思う。
では、ベータはというとオメガのヒートに当てられるタイプも中にはあるが基本的には影響を受けない。アルファとの恋愛もすればオメガとの恋愛もする。ベータ同士とも。もちろん結婚も同様である。
これだけでも混乱しかねないのに、さらにこの世界には2つの性があった。
1つはセンチネルバース。これは、私の前世の感覚で言うなら感覚過敏者とその調整者並びにその他である。
センチネルが感覚過敏者、ガイドが調整者。つまりセンチネルの人たちは五感の感覚がとても鋭敏のため、疲れすぎたりしたときに、ふとしたきっかけで自分自身を見失ってしまう。そして命に関わるようなゾーンアウトを起こす。調整者であるガイドは、センチネルの人たちがゾーンアウトしないよう調整して、ゾーンアウトから連れ戻すことができる。とは言うが、このゾーンアウトから連れ戻すのは命がけの行為と言われてる。センチネル、ガイド共に、スピリットアニマルと呼ばれる魂(精神)を象徴する動物を引き連れている。これは、センチネルやガイドには見え、ミュートには見えないし、スピリットアニマル同士で交流することは珍しい。
ちなみに、私のスピリットアニマルは引きこもりがちである。
センチネルには、五感の全てが鋭敏なセンチネルと一部だけが鋭敏なパーシャルがいるし、優秀なセンチネルはガイドなしにシールドを張って自らの鋭敏な感覚を鈍化している。
そして、ガイドをガイドする調整者は基本的にはいないらしい。
最後に、Dom/Subユニバースだ。これは本人の気質がSMのSなのかMなのかという話。Domは、Sなので支配し、甘やかし、愛したい。SubはMなので尽くし、甘え、愛されたい。Normalはどちらでもない人、Switchはどちらでもある人だ。DomやSubはダイナミクス性がプラスかマイナスかで決まる。そして、Domは、Glare(グレア)で己たちのダイナミクス性の優劣を決めることができる。強いDomに弱いDomは逆らえない。
とまぁ、性の多様性に富んだ世界に転生した私はこれに慣れるのに少し時間がかかった。
LGBTQという概念を敢えて考えず第一性を男女の区別のみと考えても、全部で54パターンもの性の組み合わせがたる多様化した世界な訳で、両親を失い、前世を思い出したら多様性に富んだ世界でした!とかどこの漫画だよと思ったが、今の私にとっては現実でしがない多様性。
現実を受け止められるようになるまでは長かった。
初めは、米花町とかどこかの漫画で見た地名や、藤峰有希子やシャロン・ヴィンヤードとかどこかで聞いた女優の名前とか、工藤優作とか小説かの名前聞いて名探偵コナンの世界と理解し、この世界において死というものは決められたもので避けようがないものだと思い込むようになった。主要人物は死なないけど、主要人物じゃない人はどんどん死ぬと思い込んだ。
そして、死にあふれる世界に慣れることに必死になり、第4性まであるということを知識として得ながらも、それが何を示すのかについては考えることもなく忘却の彼方へ押しやった。
殺人事件の件数が多い物騒な町で、目の前で、ヒートを起こされたり、ゾーンアウトされたり、サブドロップしたり、サブスペースに入られたり、殺人事件目撃したり、死にかかわることは多かったけれど、周りにいる人は主要人物ばかり。死ぬはずはないと思ってた。
そう、工藤優作と出会い、彼の家で居候し。事件にかかわる天才的な才能を持つ、工藤家とは切っても切れない縁を手にすることになった私は、自分は、事件に巻き込まれないように生きることに必死になった。だって私は主要人物ではなく、モブだから。いつ死ぬかわからないからと・・・。
事件ホイホイみたいな人達との生活の中で事件にかかわらないのはとても難しいことだったけれど、私は、彼らが事件に巻き込まれそうなときはとにかく家に引きこもった。
有希子ママは優しいし、生まれてきた新ちゃんは可愛いし、優作パパは頼りになるけれど、やっぱり人が死ぬのを見るのは怖かった。いつかその死んだ姿が自分になるのではないかと怖かった。生きたいと思っているわけじゃないのに、死ぬのは怖い。私はそんな死ぬことを怖れる10代を過ごした。
10代というのは、この世界では第2性が確定する世代でもある。第4性まであるこの世界では、その性がかかわる事件も多い。性に振り回され事件に巻き込まれる人も多い世界に生まれた私は、小さなころに自分のすべての性を知っていた。そして、パパとママに言われたようにベータでミュートでNormalな女というその他大勢を選択した。けれど、周りにいる人たちがその他大勢と違う人生を生きている中では、その他大勢として生きることは案外大変だった。
しかも私が、その他大勢を選ぶということは、みんなにたくさんの嘘をついて生きるということだった。本当の私を知るのはごくわずかな人だけという中で嘘をつく。本当のことを知られないように、嘘が本当のように、息を吸うように嘘をついてる。そして、嘘をついていることは、誰かに嘘を暴かれる怖さと背中合わせに生きるってこと。
この米花町で生きるってことは、嘘は少ないほうがいいと思う。嘘が多ければ多いほど、この町では死の匂いが近くなる気がする。ただでさえ、いつの間にか事件に足を踏み入れる可能性の高い米花町だもの・・・死の匂いは遠ざけるに越したことはない。だから私はやっぱり事件にかかわりたくない。事件に・・・死にかかわることはとても怖い。
死にかかわることが怖いと思うようになったのは、私がこの世界が夢ではなく現実である。ここにいる人たちは「生きている」と感じるようになったときだった。
それまでは、どこかで醒めない夢だと思い込んでいた。描かれた物語を逸脱することはなく、登場人物としてそこにあると思っていた人たちが、実は生きていると感じたときここが名探偵コナンの世界そのものではないということを私は理解した。
登場人物でなかったモブである自分は主要人物とはかかわらないと考えていたし、死ぬ人は絶対に死を迎え、生き残る人はどんな状況でも生き残る。そんなあり得ないことをあり得ると思い込んでいた私にも転機は訪れた。
私の知識の中で死ぬはずだった人が助かったとき、自分がこの世にいることがすでにイレギュラーなのだと理解したとき、失うことが急に怖くなった。主要人物でも死ぬかもしれないとわかったと同時に彼らの傍にいる未来も怖くなり逃げた。だって傍にいたら失うところをまた見ないといけない。人が死ぬのを見るのはもう嫌だった。
けれど、学生を卒業し、米花町を離れ、西多摩市で生活してしばらくして今度は傍にいられないことで知らない場所で起こることに対して怖さを感じるようになった。
そんなとき、ふと仕事で足を伸ばした米花町で入ったポアロで飲んだ珈琲がおいしかった。食事もおいしかった。ここにいたらいつかコナン君に会えるかもしれないとポアロへ通い・・・同時に会いたくないと避け続けてる。
今、私は悩んでる。彼に会うのか会わないのか。先に安室さんには会ってしまったけれど、彼に会うかどうかを今もまだ悩んでる。
工藤優作から新ちゃんが江戸川コナンになったと連絡を貰い、すぐい会おうと思えば会えたのに逃げた私は、今もポアロに通いながら、コナン君に会うことを避けている。


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once again