Life is ... vol.4





「いらっしゃいませ」
今日も今日とて私はポアロへ足を踏み入れた。今日はハズレの日。梓さんもいるけど、安室さんもいた。
安室さんはあんまりシフトに入ってないというけれど、こうも遭遇率が高いのはなぜなのか。今日で彼に会うのは2回目。先日ポアロを訪れて以来私がポアロを訪れるのは初めて・・・つまり2回連続で安室さんに遭遇したことになる。
「こんにちは」
「カウンターでよろしいですか?」
「はい」
店内を見渡すと、ちょうどおやつ時なのか結構人で埋まってる。テーブル席は若い女の子たちが占拠している。
「楓さん、いらっしゃい」
「梓さん、こんにちは」
案内された席は、カウンターの端っこだった。とはいえ、いつもカウンター席に座ることが多いから実はボックス席に座った回数の方が少ない。カウンターに座るとお客さんが途切れたときには梓さんやマスターとも話せるし、ここに来るときは荷物も少ないからカウンターに案内されることは今までなら喜ぶべきことだったが・・・今は少し事情が違う。
この席、安室さんが仕事をする位置と近い。必然的に顔を上げると安室さんがいる確率が上がるし、梓さんに話かけるにしても安室さんとも話さないといけなさそうなポジションなのでる。
梓さんも「JKの炎上に気を付けないと」と言っていたあむぴ人気もあるし、めんどくさいことになりたくないという気持ちもある私は、安室さんと積極的に話したくはない。しかし、安室さんにも声をかけないと梓さんにも話しかけづらい。
「ご注文はなにになさいますか?ハムサンドがおすすめです」
「・・・タマゴサンドとツナサンドのセットでお願いします。飲み物はアイスコーヒーで」
「かしこまりました。次はハムサンドも注文してくださいね」
「・・・食べたいと思うこがあったら」
こうして話している間にもJK達の目が安室さんに集中しているのを背中越しに感じる。(すごいなJK)
そういえば、こうして安室さんを目の前にすると彼はDomっぽいなと思う。いや、どう見たってDomだろう。それに、この間見つけたきらきら光ってたなにか・・・は、スピリットアニマルが飛んでるっぽい。安室透のスピリットアニマルの姿をちょっと見てみたくて普段は閉じているチャンネルを一瞬開いてみたら、彼によく似た小さな透明な羽の生えた男の子がみえた。
(珍しい)
スピリットアニマルはアニマルというくらいなので、通常は所謂動物の姿をしている。人もまた動物なので人型もあり得ないわけではないが、おそらく人型のスピリットアニマルを持つ人はとても少ない。
開いたチャンネルをそっと閉じる。一瞬空耳かと思ったけど、確かに聞こえた声。「僕の名前、アンバーだよ」声の主を一瞬見てしまったのは修行がたりなかった。可愛かった。安室さんとよく似たスピリットアニマル。
教えてもらっても君の名前を呼ぶことはたぶんない。きっとない。そう思いたい。
一応、私は、ミュート。そういうことにしてる。ヒドゥンとは違う。ヒドゥンは、ガイドであることを隠し、ミュートと偽っている人のこと。ガイドは、ガイディングに失敗すれば命かかわるからこそ、ガイドということを隠す人も一定数この世界にはいる。
で、話を戻すと、ミュートだから姿は、また見えない。けどわかる。ミュートの時でも、スピリットアニマルの存在が感じ取れてしまう。きらきら光るものというくらいの感覚だけれど、自分の好奇心によってチェンネルを一瞬でも開いて、きらきら光るものを見たいという欲求に負けたからといって、あんな風に自己紹介されるとは思ってなかった。だって、普通、スピリットアニマルは人の言葉を話さない。なんだかどっと疲れたような気持になっていた。一瞬のいたずらを後悔した。
(自己紹介してくるスピリットアニマルなんて私は知らない)
背後でJKが安室さんを呼んでいる声がした。見た目だけなら確かに美しいけれど、(この人には裏がありますよ)と言って回りたいほど、その笑顔は胡散臭い。
目の前にいる安室さんのようにDomでセンチネルな人というのは、世界の中でとても少ない希少な人になる。そして、恐らく、彼はアルファでもある。なぜわかるか?
私にはわかるからわかる。
人には勘としか説明のしようがないが、私はその人の第4の性までを当てることが得意だったりする。
彼は、センチネルのアルファなので、オメガのヒートの影響は受けにくいのだろうなぁと思う。センチネルの人々はシールドを張り自己の感覚を守るから、ヒートの影響も受けづらい。受けないわけではないけれど、受けづらいから、実はセンチネルのアルファの人はオメガの人と運命の番となっていないケースも多々ある。むしろガイドとボンドしている人の方が多いんじゃないかなと思う。センチネルの人にとっては、ガイドとの相性の方が生きる上で重要だから。
私の父もアルファのセンチネルだった。さらにいうならDomでもあった。だからこそ父もヒートの影響を受けにくかったし、ベータのガイドだった母を選んだ。だからこそ、父も母もオメガに殺された。父を運命の番と信じたオメガの女がベータの母を手にかけようとし、父は母を守って死んだ。だから、私はオメガが苦手だ。オメガの人たちにも、切実な思いはあるだろうが、自分の思い込みで私から両親を奪ったオメガという種が私は苦手。だから私はオメガのヒートによる影響が無効化されるような薬があったらいいと思ってる。


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once again