Life is ... vol.6





なんて日から、私は順調に哀ちゃんと交流し、仲良くなったと思う。
あの日、哀ちゃんがらされた質問は、「あの子たちにあげたクッキー、賞味期限とか切れてないでしょうね」っていうことで。切れてないよと伝えるだけで終わった。もちろん彼女にも残ってたクッキーを渡したし、ついでのコナン君にも渡した。おかげで私は、一人でクッキーばかり食べる日々は回避した。あれは、多分だけど、彼女なりに気を使ってくれた結果の質問で、聞きたいことは沢山あっても聞くに聞けなかったんだろう。
ポアロを後にし、マカロンを片手に阿笠博士の家へと足を運ぶ前にふと思いだした。1週間ほど前、銀行へ行った日のことを。思い出すと言っている辺りこの町にだいぶ毒されているとは思うけれど、あの日、私は後悔してため息をついていた。
米花町の銀行に立ち寄ることにしたのは間違いだったかもしれないと、その時、目の前で起きていることに目立たぬようそっと小さくため息をついた。
「手をげろ!」
大声で叫ばれた言葉。パーカーを被り、拳銃をもった三人の人間が「金を用意しろ!」と窓口の銀行員へ向かって叫んでる姿を目にしちゃったときの落胆というか気持ちは表現のしようがない。
銀行員が現金を用意する中で、銀行を訪れていた客は一か所にまとめられた。私も当然その中に一人。手を背後に縛られ、床に座るように促される。この事件って確か、銀行員が一人殺されと思い窓口に向けて背中を向けて床に腰を下ろしたときだった。
パンっ。
乾いた音がして背後で叫び声がした。
(あの世界の中で死んだからとして必ず死ぬわけじゃない・・・)
そう、まったく同じ事件が起きるわけじゃないし、死んだ被害者が必ず死ぬわけでもない。けれど・・・今、また人が死んだ。目の前にいる女の人の目が見開かれて、言葉にならない声がその口からこぼれる様をぼんやりと眺めた。背後を振り返って誰が撃たれたのか確認したいけれど、確認することが怖い。無意識に音に集中しそうになる自分に気が付いて、意識して聞こうとするのをやめた。見ようとすることも。それでも、聞こえてくる声はあって、けんやさんって名前を呼ぶ女の人の声が耳についた。
三人の犯人が大きめのバックをもって走って銀行から出ていく。警察も誰も間に合わなかった。「いや・・・いやよ」と悲痛な声が、後ろを振り返れば女の人が、床に倒れた男の人にすがりつく姿があった。
(人が死ぬって一瞬の出来事なんだよね)
あの時もそうだった。パパもママも、あんなことが起きるまではみんなで笑って、平凡で単純な、でも幸せにあふれた一日がこれからも続くと信じでた。それが、ある日突然奪われてしまう。その辛さが同じとは言えないけど、彼女は今まさにそんな突然が襲ってきた被害者の一人。パパが床に倒れてた姿が・・・ママが浅く忙しなく息をしていた姿が脳裏によみがえったのを目を閉じて追い払う。誰しもが呆然と彼女の泣き声を聞いてしばらくして警察の人たちが店内へ飛び込んできた。
(遅いよ。もう死んでしまった命は戻らないのに)
何もできなかった自分を後目にそんなことを思う。私なんか、死ぬかもしれないと知りながら、この場に居合わせながら動けず・・・動かずにただ被害者として縛られてたくせにね。
あのあとは、警察の事情聴取に協力し、家に帰った。家に帰り、テレビを付ければ生で見た事件のニュースが放送されている。犯人が逮捕されないままニュースで同じような映像ばかりが流れる日々はもう1週間も続いてた。
ポアロを後にした私は、手にしたマカロンを哀ちゃんに渡すために阿笠博士の家に向かうことにした。シトロン味のマカロンをコナン君にと思い、ポアロの横に階段を昇ればそこはすぐに毛利探偵事務所だ。
せっかく時間をかけて買いに行ったマカロンだ。おいしいうちに食べてほしい。関わると腹を決めてしまえば、怖がるよりも今を楽しむ。案外、切り替え早いんだ。
ドアの向こうは毛利探偵事務所。ドアの前に立ち、手を伸ばす。中から数人の声がしてるから留守ではない。あとはコナン君がいるかどうか。。。
「すみません・・・コナン君いますか?」
「どちらさまですか?」
「あん?」
「あれ?楓さん?」
「楓お姉さん!どうしたの?」
(あれ・・・なんで安室さんまでここにいるの?)
ドアを開けた先には、コナン君の他に、蘭ちゃんと毛利探偵と安室さんがいた。
「この間、話してたマカロンおすそ分けにきたんだけど・・・」
「おい、コナンこんな素敵な女性どこで・・・」
「もう、お父さんっ!コナン君のお知り合いなんですね、初めまして毛利蘭です」
「佐藤楓です」
「コナン君、楓さんと知り合いだったんだね」
「うん。ちょっと前に公園で知らったんだ」
いつも思うけど、コナン君もかなり胡散臭い声出すんだから、よくこれで新ちゃんじゃないってバレないよなって思う。人の思い込みは怖い。成長することは会っても、人が退化小さくなることはないという思い込みが、工藤新一=江戸川コナンということを無意識に否定し、気が付こうとしないんだから。
「というか・・・コナン君にお世話になっちゃって。体調崩してたの、少年探偵団のみんなに助けてもらったのよね」
「うん!楓お姉さん、ずーっと暑い中ベンチに座ってて熱中症になっちゃってみたいなんだ」
「そうだったんだ。コナン君お手柄ね」
「えへへ」
「安室さんも楓さんとお知り合いなんですか?」
「彼女、ポアロの常連さんなんです」
「あ゛〜?こんなキレイな女性がポアロの常連。俺会ったことねえぞ!」
「私もないかも」
安室さんの視線が痛い。会ったことないですよね。えぇ、わかります。皆さんが休みの日や早朝や午後の学校が終わってからが多いですから、その時間は徹底的に避けてました。だから会うわけないんです。とは言えないので・・・。
「私、お店が空いてるときを狙ってたので」
「変わられたんですか?」
「えっ?」
「いえ、過去形だったもので。細かいことが気になるんです」
「どうでしょう?変わるかもしれないし、変わらないかもしれないし。私にもわかりません」
「そうですか・・・。すみません。楓さんはコナン君に用があったんでしたね」
「えぇ・・・。これ渡すだけですけど」
「さっき、梓さんにも渡されてたあの?」
「あっ、そうです。買うことが楽しくなっちゃうんですよね、あんまりよくないことですけど」
「これ・・・大阪にしかないお店のマカロンですよね?確か、一葉ちゃんがすごい美味しいってけど通販とかもしてないからって一度お土産にくれたんです」
「おい、蘭。このマカロンとかって菓子がそんなに有名なのか?」
毛利探偵は、信じられないって顔で、マカロンと私を交互に見てる。そんなに変かな?美味しい食べ物を食べるために新幹線に乗って足を延ばすって、別に変じゃないと私は思うんだけど。
「一般的に有名なのかはわからないけど・・・美味しかったから覚えてて」
「よかった。じゃあ、蘭さんたちもコナン君と一緒に召し上がってください。本当にたくさん買っちゃって、買った後で一人で食べきれないし、どうしようって悩んでたんです」
「私までいただいちゃっていいんですか?」
「はい。むしろもらっていただける方がうれしいです」
哀ちゃんのところへおすそ分けの前にコナン君におすそ分けに来てよかった。ちょっと減った。
「ねえねえ、楓お姉さん・・・。まさか、今大阪からの帰りとか?」
「・・・なんで?」
「だって・・・これお店の保冷剤ついてるし」
「んー、でも別に大阪の帰りとか限らなくない?」
「そうですね、限りませんけど・・・僕もあなた大阪からの帰りだと思います。この量をわざわざ家からは持って運ばないでしょう」
安室さんの視線が刺さる。保冷バックの中を見られた。うん。大量だもん。それ見たら、買えりとしか思えないよね。
「・・・まあね。ちょっと眠れなかったから、朝一の新幹線で大阪まで行って、マカロンだけ買ってまた新幹線乗って帰ってきたから帰りではあるけど」
「マカロンのために新幹線で大阪までを往復するって・・・」
「食い意地すげぇ」
「コナン君?」
「あっ、ごめんなさい」
「コナン君、失礼だよ。確かに大阪まで買いに行っちゃうのはすごいけど・・・」
「・・・楓さんって、結構変わってるんですね」
「そういう安室さんは案外失礼ですね」
なんて話してたら毛利探偵の携帯にメールが届いたようだった。
「メール?えーっと・・・『今日、そちらに伺う約束をしていた樫塚圭ですけど・・・こちらの都合でお会いする場所をレストラン“ころんぼ”に替えたいのですが・・・。その店ならそこから割Tお近いですし、時間通りにお会いできると思いますので・・・OKかどうかお返事をお待ちしております・・・』って面倒くせぇ、断っちまうか・・・」
「ダメよ!せっかくのお客さんなんだから・・・。それに私もコナン君もお昼まだだからコロンボで済ませてもいいしさ!」
「安室君のサンドイッチ食べねえのかよ?」
「これは夕飯用に入れておけばいいじゃない!」
「晩飯サンドイッチかよ?」
「僕も同席させていただいて構いませんか?」
「みなさん、お出かけみたいですね、私もこれで失礼しますね」
コナン君にマカロンを渡すためだけに来たのだから、これ以上の長居は無用。思ったよりも長く話してしまったしとドアに向かって歩き出そうとしたら、手を引かれた。
「えっ、楓お姉さん、帰っちゃうの?」
「うん、だって、コナン君にマカロン渡すため来ただけだし、哀ちゃんのところにも届けに行く予定だからお暇するけど、何かある?」
「あのさ・・・」
「うん?」
「僕、楓お姉さんの連絡先知らないから教えてほしいなって」
「あっ、楓さん、私も知りたいです。コナン君のことでご連絡することあるかもしれないし」
そっか。コナン君は小学生だもんね。保護者との連絡は必須か。
「じゃあ、これ名刺です。連絡先書いてあるので、後で蘭さんって呼んでいいかしら?」
「はい、大丈夫です」
「ありがとう、そしたら、蘭さんからメールいただいてもいいですか?コナン君もあとで蘭さんから聞いてね」
そんな風にコナン君と蘭さんと話をしている後ろが安室さんが毛利探偵に話しかけてた。彼は一緒にコロンボへ行くらしい会話を聞いていて知っていた知識が一つの線になって繋がった。
今日は、この毛利探偵事務所のトイレで殺人事件が起こる日だ。


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