Life is ... vol.7





「哀ちゃん、これ、マカロン食べて」
「楓さん・・・あなたね、また」
「買いすぎたのは反省してる。けど哀ちゃんにも食べてほしかったの」
小さな小学生の彼女は、実年齢も私よりも年下のはずなのに、時たま私よりもずっと年上の女の人のような雰囲気を醸し出す。
可愛いのにどこか頼れるそんな雰囲気が心地よく、阿笠博士はちょうど出かけてて哀ちゃんと二人。彼女が淹れてくれたコーヒーと一緒に自分が買ってきたマカロンを食べていたら目を細めた彼女の顔が目の間に近づいてた。
伸ばされた小さな手が私の目の下に優しく触れた。
「はぁ・・・それで、その眼の下のクマはなに?」
「えっ?」
「メイクで隠してるみたいだけど、目の下、黒いわよ」
「あー。隠れせてないと」
「えぇ。隠れてないわね。まあ、ほとんどの人は気が付かないと思うわよ。それ・・・」
「うん?」
「そのクマ。あなたが巻き込まれたあの強盗事件を関係あるの?」
「哀ちゃん?」
「なにかしら?」
「私、巻き込まれたって話したっけ?」
「いいえ。ただ、一度だけニュースの映像であなたに似た人を見ただけ」
「そっか・・・映ってたのもあったんだね」
「ということは、あれ、楓さんだったのね」
「ちょっと聞いてもらってもいい?」
「いいわよ」
「なんかね、人が撃たれて死ぬの見たらなんか眠り浅くなっちゃって。この町に戻ってきて事件に巻き込まれる可能性って考えなかったわけじゃないんだけど、覚悟を決めてたはずなのに目の前で起きてることに何もできなかった」
「当たり前じゃない、何かできるなんてほうが少ないのよ。江戸川君や工藤君みたいな方が可笑しいの。何もできないあなたが悪いんじゃないわ。それが普通よ」
「わかってるんだけどね。でも、何かできたんじゃないかなって」
何かじゃない。彼らが人を殺す前にどうにかする方法、私は一つだけ持ってた。けど、それを使わなかった。使うという選択肢すら受かべられずあの場で手を縛られ座り込んでいた。
「そう・・・」
「悔いても、過去は変わらない。次のために自分がどうするかだとわかってるんだけど。できたことがあったのに思いつきもしなかったった自分が許せなくて」
口に含んだコーヒーが苦い。
彼女は、もう一人殺してるはずで、今日この後二人目を殺したはずで・・・。銀行を襲った強盗が奪った命が、別の命を奪う連鎖を、私はもしかしたら止められたかもしれないのに、止められなかった。
ここで生きる現実を受け止めたはずなのに、結局以前と同じように何も変えようとしていない自分がいるだけ。
「あなた、少し寝なさい」
「えっ?」
「そんな寝不足の頭でいろいろ考えたって悲観的なことしか出てきやしないわよ」
言葉と共にソファにおいてあったブランケットが頭の上にかけられた。周りの光が遮られると自然と涙があふれそだった。
「ありがとう」
言葉は、もういらない。哀ちゃんの暖かさに包まれて私は目を閉じれば、一人で家にいたときには感じなかった睡魔にあっというまにつかまって眠りに落ちた。
「でもどーやって追跡する気なのよ?博士のビートル、今、修理に出してるんじゃなかった?」
「あ、ああ・・・。こーなったらタクシーに無理を言って追うしか・・・」
(・・・阿笠博士の声がする)
意識の中で阿笠博士と哀ちゃんの声を捉えた。帰ってきてるってことは私だいぶ寝た?と慌てて飛び起きるともう一人誰かの声がしてる。
「では、私の車で追いますか?申し訳ない・・・立ち聞きするつもりはなかったんですが・・・」
「す、昴君!」
「クリームシチューのお裾分けに来てみたら、戸口で何やら不穏な会話が耳に入って・・・」
「哀ちゃん、博士・・・何があったの?」
「「楓さん(楓君)」」
「さぁ、追うなら早く・・・」
「後で説明するから今は黙ってて。じゃ、じゃあ、車のキーだけ、貸しなさいよ!私と博士で追跡するから!!」
(私一緒に行くの決定なんだ)
「貸してもいいんですが、あの車は癖があって私の運転じゃないと・・・」
「だったらワシと昴君で追跡を・・・」
「ええ・・・それでもかまいませんよ・・・。君が一人でここに又はそこの女性と残って、あの子の安否報告をやきもきしながら待っているつもりならね・・・。よければ君も一緒に行くのをおお勧めしよう・・・。その女性ももちろん一緒に。無理強いはしませんが・・・」
「・・・」
思い出した。哀ちゃんは、この後昴さんたちとコナン君を追跡メガネの予備で追うんだった。というか私、そんな時間まで寝ちゃってたのか。今何時よ。確かに最近眠れてなかったとは言え、結構寝てる。その分、頭はすっきりしてた。
(まだ、できることある。今の私だからこそ、彼女に対してできることがある。ただの自己満足かもしれないけど、それでも私は・・・)
「哀ちゃん、何が起きてるのかあんまりよくわかってないけど、一緒にいっていいかな?」
「えっ?」
「コナン君を追いかけるんだよね?連れてってほしいの、その場所へ。それから私も一緒にいいですか?」
「もちろんですよ、お嬢さん」
「お嬢さんって年でもないですけど・・・楓です」
「昴・・・私は沖矢昴といいます。では、楓さん。あなたもご一緒に・・・」
「はい、同行させてもらいます。あっ、それとは別に、昴さん甘いものお好きですか?」
「はい?」
そして、私は、昴さんの車に乗っている。甘いもの好きじゃないかもしれないけど、美味しいですからと残っていたマカロンのいくつかをもらってもらった。残ったマカロンは今博士の家の冷蔵庫の中。
哀ちゃんが追跡メガネをかけてコナン君が誘拐された経路を追跡している横で、車窓から流れる景色を見るともなしに見ていた。私はただ、哀ちゃんの横に座っているだけ。
住宅街の中を走る昴さんの車の中から、コナン君の乗る車を見つけた途端、銃声が聞こえた。
銃声のような音じゃない、あれは銃声だ。昴さんの指示で毛利探偵にそのことを伝えると、昴さんの運転でコナン君の乗った車を追いかける。徐々に早くなる速度と博士に任せて運転席のドアを開ける昴さんにもうすぐその時が来るんだと私は、私なりの覚悟を決めた。
昴さんがドアを閉めた。この人、車は知らせながら街中で拳銃ぶっ放そうとしてたような気がするけれど、その横を白いRX7が走り抜けていく。
(あと少し)
急にハンドルを切ったRX7が犯人の乗る車の前に横っ腹を見せ、物理的に止めると昴さんも同時に車を止める。コナン君が助かった姿を確認して、私は車から降りた。
私が、今用があるのは・・・
「浦川芹奈さん」
「これ、差し上げます」
私が差し出したのは、とある弁護士の名刺。
「えっ?」
「自首したあなたの罪、この人ならできるだけ軽くしてくれると思うから・・・あなたが必要だと思うならですけど」
私は、あの銀行強盗事件で人が死ぬのを止めることも、彼女が恋人を殺した犯人を殺すのも止めることはできなかったけれど、彼女の人生はまだ続いてる。その人生が少しでも幸せなものになることを願わすにはいられないから。


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