bug-3 07
※一虎目線※
家に帰ると、あの子は幽霊でも見たような顔でこっちをみていた。
「あれ、急いで帰ってきたんだけど、早過ぎちゃった?」
つくづく、嘘が下手な女(やつ)だ。
オレが目の前に立つと、ようやく、おかえりなさい、と声を出した。
「ただいま。今度はどんな悪だくみをしてたの」
「……床に、吐いちゃって」
「どこ?」
彼女が指した方を見ると、そこには確かに、ティッシュがごちゃごちゃになって固まっていた。
「ごめんなさい……」
泣きはらした目から、涙が零れる。
「いーよ、これくらい。オレ、こんなんで怒んないよ」
彼女の隣に腰を下ろし、頭を撫でてやると、彼女は身を硬くしてそれを受けた。
「それで? 他には何したの?」
「……何も」
「ホントに?」
「何もしてない」
彼女が震える声でそう言った時、玄関の呼び鈴が鳴った。
オレは彼女の頭を軽くポンと叩き、玄関へ向かった。ドアを開けると、ババアがいた。多分、隣の家のババアだ。そいつがあの子がしていたのと同じような表情でオレを見ていた。
「何、なんか用?」
声を掛けても返事は出なかった。その代わりに、オレの向こうにチラリと視線を送った。
ババアは息を吸い込み、
「ごめんなさいね、間違えちゃったみたい」
とわざとらしい声でそう言って、逃げるように去った。
別に追いかける必要はない。充分だった。サイレンが聞こえた。まだ離れていたけど、それは間違いなくパトカーのサイレンだった。
「呼んだのか」
オレは彼女を問い詰めた。髪を掴んで顔を上げさせ、オレを見るように言った。
彼女の口からは「ごめんなさい」という言葉だけが無意味に垂れ流されていた。
オレは舌打ちをして、彼女をそのまま玄関まで引きずった。
酷く手間がかかった。
サツからは逃げなきゃなんないし、泣き止まないし、歩くのは遅いし、ちょっと引っ張ればすぐに転ぶし。けどオレは根気強く彼女を連れて、芭流覇羅のアジトまで移動した。
アジトにはまだだいぶ人が残っていた。オレが女を引きずってきた事で、好奇の目を向けている奴もいた。そんな中に、オレは彼女を放り投げた。
目も当てられないくらい不細工な有り様だった。濡れた顔に、土だか埃だか分からない汚れがついた。丸まって、まだ「ごめんなさい」を繰り返していた。
謝ればいいってもんじゃない。
オレを裏切って、ブチ壊しておいて、言葉で済ませていい訳がない。
全部全部台無しだ。
怒りに任せて、彼女の腰の辺りを蹴った。続けざま、腹、顔、肩、ところかまわずに何度か蹴った。オレの服を着たままの彼女の身体に足跡が付き、徐々にボロ雑巾のようになっていった。
「おい」
肩を掴まれ、場地がまだ残っていた事に初めて気が付いた。
「んだよ、邪魔すんな」
「死ぬぞ」
「お前には関係ねぇだろ」
ざっと見回し、適当な奴を三人、指さして呼ぶ。それからボロ雑巾の彼女を指して、「犯せ」と命令した。
「一虎、何があったのか知らねぇけど、それだけはダメだ」
場地が強くオレに言った。
「触んな。知らねぇんだったら口出しすんなよ」
「お前の女だろ、こいつ。やめとけ、後悔すんぞ」
一瞬、頭の中に何かがチラつく。
それは、酷くうっとおしい何かだった。
舌打ちをして、女の髪を掴み、オレはアジトの奥に向かった。そこには埃を被った事務室があった。オレは女をそこに投げ捨てた。
「一生ソコにいろ」
床で呻く女にそれだけ言って、アジトを後にした。
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