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※一虎目線※
少年院に入ってからはずっと、二つの事がまだら模様になって頭の中を支配してた。
オレをこんな目に合わせたマイキーの事、それから残してきてしまった大切な人の事。
あの子と会ったのは「お見舞い」の日が最後になっていたから、凄く心配だった。何度も会いに行ったし、何度も電話した。けどいつもあの子の両親が邪魔をした。最低な親だ。
きっとあの子もオレを心配していたに違いない。オレが少年院に入った事はもう知っているだろうか。変な奴に絡まれたりはしていないだろうか。こんな事になって、怖がっていないだろうか。
手紙を書こうと頑張ってみたけど、文字にすると考えてる事が上手くまとまらなかった。少し書いては捨て、また書いては捨て。それを繰り返す度に、会いたいという気持ちが募り、優しく微笑む彼女を夢に見た。
出院してからは大忙しだった。会わなきゃいけない奴もいたし、叩きのめして黙らせる必要がある奴もいた。ようやく時間が取れた時、オレは溝中に行った。あの子に会う為だ。けど、あの子はいなかった。あの子の友達に訊いてみると、神奈川に転校したと答えた。詳しい事情は知らないと話しながらも、転校先を教えてくれた。
オレはまだやる事が残っていて地元を離れられなかった。だからその日の内に人をやって、あの子を迎えに行かせた。転校? ふざけんな。どうせ親の都合だ。オレから引き離す為にやったって事は容易に想像がついた。あの子はきっと、オレからの連絡を待っていたに違いない。
どうしてこうも邪魔ばかり入るのだろう。
翌日になって、オレはあの子と再会した。
オレの前に放り投げられたあの子は、見慣れないセーラー服を着ていて、口にガムテープを張られ、腕にも痛々しいその痕があった。何があったのか髪もだいぶ乱れていたし、少し苦し気な顔をしていた。
派遣した連中に確認したら、抵抗したからバイクの後部座席に磔(ハリツケ)にしてきたと話した。だからオレはそいつらにキッチリと制裁を加えて、それからあの子を助け出した。
少し赤くなってしまった口元を指先でなぞる。可哀相に。オレは彼女を、労わるようにそっと優しく抱きしめた。
「夢子ちゃん」
オレは名前を呼べる喜びを噛みしめていた。彼女の小さな身体はオレの中にすっぽりと収まっていた。懐かしい、彼女の匂い。ボサボサになった髪を直してやろうとしたら、あの子はそれを遮り、ポケットからハンカチを取り出してオレの手を包んだ。
「血が付いてる」
俯いたまま、震える声でそう言った。
「オレのじゃないよ、心配しないで」
彼女はオレの手についた返り血を拭ってくれた。ひんやりとした彼女の指が、とても心地よかった。
「それ、洗って返すよ」
「いいよ、別に」
「エンリョすんなって」
血が付いたハンカチを自分のポケットに突っ込み、彼女の頭を撫で、髪を整えてやった。
「酷い目に合わせてごめんな。もうこんな事させねぇから」
もう一度抱きしめる。
話したい事がたくさんあった筈なのに、全部どうでもよくなった。だって彼女は今、オレの腕の中にいるのだから。全部どうでもいい。
と、彼女がオレの名前を小さく呼んだ。全身が痺れるほどに嬉しかった。
「わたしはこれからどうなるの」
「そうだなぁ、夢子ちゃんはどうしたい?」
顔を見ると、今にも泣き出しそうな顔でこう言った。
「……帰りたい」
オレは胸の奥をギュッと掴まれた。
彼女はきっと、ずっと中一の春に戻りたかったんだ。誰にも邪魔される事のなかった、あの幸せな日々に。
けど、進んだ時間は戻せない。戻せないなら、別の手を考えるしかない。
「……大丈夫だよ、全部オレが何とかする。任せとけ」
不安げに歪む彼女の唇に、キスをした。
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