サラシバ


街灯のあかりの下で(2)



 カウンターで前金の支払いをさせ、個室へと連れていく。狭い建物だから、男の身体は余計に大きく感じられた。
 個室には、別に暖房器具があるわけでもない。寒いことに変わりはないが、外よりはいくらかマシである。
 粗悪なベッドに綿のつぶれた布団。
 明かりは薄暗く、殺風景な部屋。

 あたしは上着を脱ぎ、ベッドに腰を下ろす。隣に空いたスペースに手をやり、

「ま、座ったら?」

 声をかければ、男は身体に巻き付けていたマントを外し、少し身体を小さくするようにしてそこへ座った。
 ベッドが軋む。
 これじゃ、事に及んだらベッドが壊れるかもしれない、という程の音を立てて。

「アンタ、随分いい身体してるよね」

「ありがとうございます」

「鍛えてんの? 格闘家?」

「まぁ、そんなところです」

 この町には賭け試合をするような施設もある。もしかすると、そこを目当てに流れてきた旅人かもしれない。足元に置かれた荷物から、そんな想像をする。

「ねぇ、…乱暴なのが、好きなの?」

「そんな! 私はそんなことに自分の拳を使ったりはしません!」

 セックスについて訊いたつもりが、ズレた答えが飛んできた。言葉が足りなかったのだろうか。雰囲気で読み取ってほしいものだ。
 まぁ、これで乱暴に押し倒されても困るのだけれど。

「優しいんだね」

 少し媚びを含んで言ってみれば、男は視線を下に落して、さらに身を縮めた。

「そうあろうと、努力はしているつもりです」

 勝手に辛気臭い雰囲気になるのはやめてほしい。

「…そうね」

 少しいじめてみたいような、そんな気持ちが湧き上がる。

「他の子はほっといて、あたしだけ助けた」

 わざと身体を寄せて、できるかぎりその耳元へと近づこうとする。

「あたしを選んだのはなぜ?」

 なぜでしょう、と自問するように男が呟く。

 そんなの決まってる。あたしのやり方がうまいからだ。
 あたしは他の連中とは違う。売り方も、引っ掛け方も、分かってるんだから。

「一人の力で」

 男は自分の手元をじっと見つめている。

「沢山の人を救うことなどできません」

 何を見ているのだろうか。
 気になって、覗き込もうとしたら、その眼が突然あたしの方へと向いた。
「今の私には、これが精一杯のできることなんです」

 嫌な眼だ。
 まっすぐ人を射抜く。
 気遣いの欠片もない、不躾な眼だ。

 その眼を抉ってやりたくて、あたしは手を伸ばす。
 男はそっと、あたしのその手に触れた。そしてあの不躾な眼で、あたしの手を見る。

「こんなに冷たくなって…」

 両手で包み込み、願い事をするように目を閉じる。
 男の体温が、柔らかく伝わってくる。
 あたしはなんだか急に、酷く惨め気持ちになって、手を引き戻した。

「やめてくれる? そういうの、いらないから」

「…すみません」

 男はまた身体を縮めた。

「あたし、アンタのこと嫌いだわ」

 ちらりと見ると、男は満足そうに微笑んでいた。



(続く)

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